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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第5章 5 試作
 ボディシートの試作品が出来上がる。上手くいけばもうほぼ完成だ。
 今回は足を洗わず、シートで拭いたのち、外へ出かけてからマンションに帰り結果をみる。芳香は言われたとおりにシートで足を拭く。

「このシート、無香料なんですか?」
「うん。一応ね。これでうまくいけば柑橘系とフローラル系を作るつもりだ。芳香の場合は匂いがあるから無香料でいいと思う」
「はあ、なるほど。日本人は体臭ないですもんねえ、兵部さんみたく」
「薫樹でいいよ」
「は? はあ」


 スニーカーを履き芳香は一人で外に出た。
2時間ほどうろついて帰ってきてほしいということなので久しぶりにデパートに行き、ウィンドウショッピングを楽しむことにする。

 芳香はシューズショップに行き、可愛いパンプスを眺めた。
会社ではヒールの低いパンプスで普段はキャンバス素材のスニーカーだ。必ずソックスを着用しないと匂ってしまう足にはその選択しかない。
足元に合わせてファッションも自分の意思に反した地味な森ガールになる。
まだ試し履きをする勇気は出なかったが、つやつやしたエナメルのパンプスと編み上げられたロングブーツを履いている姿を想像し悦に入った。

 食品コーナーに行き、たまにはお返しをしようと何か昼食になるようなものを探す。

「えーっと、匂いがきつくないものって何があるかなあ」

 いつもひんやりとした匂いのないものを家で食べる薫樹に、温かいものをと思うがなかなか難しい。彼の家で香るものはホットティーだけだ。
結局サンドイッチを買うことにした。
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