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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第5章 5 試作
ゴム手袋を脱ぎ、眼鏡を直しながら芳香の爪先を持ち、鼻先を近づける薫樹に芳香は気恥ずかしい思いをしながらも、何かふわっと匂うことに気づく。
自分の足の匂いではない。
スンスンと鼻を鳴らすと匂いのもとが薫樹の指先だということに気づいた。彼の指先が芳香の足の指をつまんだり揉んだりさすったりする。
うっかり睡魔に襲われそうになるが、また違う匂いが漂い始め「あ、いつもの匂いだ」と言う薫樹の声に覚醒した。
「あ、あの。薫樹さんの手を見せてもらえませんか?」
「ん? 手? いいよ」
いぶかし気な顔つきをしながら薫樹は手を差し出す。骨ばっているが大きくて柔らかい手だ。芳香は指先の匂いを嗅ぐ。(やっぱり……)
「薫樹さんは匂宮かとおもってたけど薫の君なんですね」
「なに?」
「指先から香りがする。それも木の香り。すごくいい匂い」
「そんなはずはない」
薫樹はもう片方の手の匂いを自分で嗅ぎ、顔を左右に振る。
「いえ、本当です」
「うーむ。全く分からない」
ありとあらゆる香りを嗅ぎ分け、再現、創造できる彼の唯一知覚できない香り、それは彼自身の香りだった。愕然としている薫樹に芳香はなんとなく親しみを感じる。
自分の足の匂いではない。
スンスンと鼻を鳴らすと匂いのもとが薫樹の指先だということに気づいた。彼の指先が芳香の足の指をつまんだり揉んだりさすったりする。
うっかり睡魔に襲われそうになるが、また違う匂いが漂い始め「あ、いつもの匂いだ」と言う薫樹の声に覚醒した。
「あ、あの。薫樹さんの手を見せてもらえませんか?」
「ん? 手? いいよ」
いぶかし気な顔つきをしながら薫樹は手を差し出す。骨ばっているが大きくて柔らかい手だ。芳香は指先の匂いを嗅ぐ。(やっぱり……)
「薫樹さんは匂宮かとおもってたけど薫の君なんですね」
「なに?」
「指先から香りがする。それも木の香り。すごくいい匂い」
「そんなはずはない」
薫樹はもう片方の手の匂いを自分で嗅ぎ、顔を左右に振る。
「いえ、本当です」
「うーむ。全く分からない」
ありとあらゆる香りを嗅ぎ分け、再現、創造できる彼の唯一知覚できない香り、それは彼自身の香りだった。愕然としている薫樹に芳香はなんとなく親しみを感じる。