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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第11章 3 真菜の秘密
――高校2年の夏の事。
 夏期講習の帰り道、隣に住んでいる一つ年下の鳥居和也が、泣きべそをかきながらサッカーボールを片手に汚れた足でとぼとぼ歩いてくるのが見えた。

「和也、どうしたの?」

 泣き顔を見るのが初めてだった。幼いころから、明るく朗らかで更にはリーダーシップも発揮している和也は誰もが屈託も屈折もない好青年になるだろうと思っている。

「足、くじいて……。レギュラー外された」

 真菜に気づき、目を腕でゴシゴシ擦ったが間に合っていなかった。

「まだ一年じゃん。元気出しなよ」
「んんっ」

 長年サッカーをやり続けてきて、初めての挫折を味わう瞬間だ。普段の明るくまっすぐな表情を知っている真菜は、この泣き顔の幼気な様子に思わずときめいてしまう。
いけないと思いつつ、こんな可愛い様子を見ていたいと思った。しかしその時はそれ以上何もすることはなく立ち去った。


 この時に付き合っていた彼氏に真菜は不満を持っていた。俺様なのだ。
真菜は外見が柔らかい雰囲気で顔立ちもぼんやりとしているせいか、従順にみられることが多く、交際を申し込んでくる男はいつも俺様タイプだ。

 公園のベンチで二人座りながら話しているときだった。
「お前、もっとスカート履けよ」
「え、なんで」

 真菜はジーンズが好きで制服以外の私服はほぼパンツスタイルだ。学校の制服と私服のギャップがあるせいか付き合うとまず言われるのが服のことだ。

 毎度のことだと思いながらそろそろ我慢の限界を感じる。

 男たちはいつもそうだ。スカートを履け、髪をもっと伸ばせ。

「ちっ、鬱陶しいな」
「え? なんか言ったか?」
「ううんーなにもー」

 ムカムカし始めた真菜は足元に落ちていた小枝を拾い、ベンチの後ろの隙間のから彼氏の尻に枝を差してやる。

「いってええっっ! なんだっ! なんだ?」

 立ち上がりキョロキョロとあたりを見まわす彼を見てほくそ笑んで知らんぷりをした。痛がる顔を見て少し興奮する。

 イメージが違うということで別れてきた男たちにこっそり肉体的に痛みを与えて悦に入っていた。
そうやって過ごす高校生活はあっという間に終わり、受験も無事終わって地元の大学に入学した。
もう制服はないのでイメージを勝手にもたれることが無くなりほっとする。
しばらく男はいいやと思い、女友達と行動することが多くなった。
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