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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第13章 5 デート
 薫樹のマンションに帰宅する。
シンプルで生活感のないモデルルームのようだった薫樹の部屋に少しずつ、色と香りが加わっている。

「疲れた?」
「いえ、楽しかったです」
「よかった。ゆっくり風呂に入るといいよ」
「さっき買った入浴剤入れてもいいですか?」
「いいよ」

「あ、あの。一緒に入るんですか?」
「うーん。僕は後にするよ。少しやることがあるから」
「そうですか、じゃお先に」

 芳香は少し残念な気がしたが、今夜こそ、結ばれるかもしれないと思い念入りに身体を洗おうといそいそと浴室に入っていった。


「よし。準備するか」

 薫樹は芳香が入浴している間に寝室を調整することにした。
室温も湿度もまずまずなのでエアコンを使う必要はなさそうだ。
 最近、芳香が持ってきた観葉植物のアレカヤシのおかげか湿度が安定し乾燥を免れている。細長い羽のような葉が噴水のように茂りヤシ科であるアレカヤシは空気を清浄する上に南国ムードを醸し出している。

「今日のハーブ園はなかなか良かったな」

アレカヤシの葉をスッと撫でハーブに囲まれた芳香を思い出す。
シーツはすでに新しいものに変えているので少し整えるだけで良い。

 寝室の入り口の片隅に調合したルームフレグランスをセットすることにする。
 今回はリードディフューザーにしてみた。

 小さな青い遮光瓶の蓋を開け、木のスティックを数本差して置いておく。
芳香が風呂から上がり、そして薫樹が入浴後に戻るころにちょうど香りが満ちているはずだ。

「さて狙い通りにいくだろうか」
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