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午睡の館 ~禁断の箱庭~
第2章 後編
すべてが愛しかった。
兄の汗ばんだ身体も、額も。
いきそうになる時に、子宮口にぐりぐりとこすり付ける癖も。
「……いく……っ!!」
せっぱつまった擦れた声が、先ほどまで涼しげだった雅弥から発せられる。
そして渡邉はまどろみの中、櫻子が必死に腰を振るうのを見ると、意識を失った。
渡邉が意識を取り戻し、重い上半身をベッドから起こした時、ずっとそばに居たのだろうか、使用人のお仕着の様なものを身につけた老齢の紳士が起き上がる手助けをしてくれた。
「……大丈夫ですか?」
差し出された水に急激な喉の渇きを覚えた渡邉は、受け取ると一気に飲み干した。
口元を袖口で拭うと、その人を見上げる。
「……ここは?」
「東儀家でございます。渡邉様はこちらにお着きになってすぐに倒れられたのですよ。……覚えていませんか?」
「倒れた……?」
心の中で「あんたらの主人が俺に薬をもったんだよ!」と罵りながら、渡邉は答える。
「ええ、念のため医師の診察を受けたところ、過労とのことでした」
「東儀さんは、どちらに……?」
「……櫻子様、でしょうか?」
「え、いえそうじゃなくて……私は東儀のお兄さんとさんと話をしていて倒れて……」
「すみません……。何のことでしょう? 主人ならまだ会社から戻りませんが……。もしかして、倒れた時に頭でも打たれましたか?」
心底心配そうに渡邉を覗き込んでくる老齢の使用人を、渡邉は愕然と見返す。
(……どういうことだ……? あれは全部夢だっって言うのか? まさかあんなリアルな夢があるわけ……)
「渡邉様……?」
急に黙り込んでしまった渡邉を、使用人は気遣わしげに覗き込んでくる。
「櫻子は……っ!? 櫻子さんはいますかっ?」
切羽詰まった様子の渡邉に、使用人は少し目を見開いたが、直ぐ平静に戻ると、静かに答えた。
「櫻子様は……予定を早められ、今日の夕刻の便で英国留学へと発たれました」
渡邉がはっとして時計を見ると、時刻はもう夜半を回っていた。