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月曜日の秘めごと
第2章 雨と傘
「あ、こいつの出勤日はーー」
頭がまわらず頷くだけの僕に代わり、雄志が僕の出勤する曜日や時間帯を彼女に教えてくれていた。そういうところも気がまわる。
「丁寧にありがとう」
「いつでも大丈夫ですから」
「わかった。あ、あたしは湊(みなと)」
名乗ったのは下の名前だけだった。
僕と雄志に会釈し、コンビニの外へと消えていく。
僕たちは顔を見合わせた。そして雄志は結局傘を買わず、ずぶ濡れで帰っていくはめになったのだった。
彼女はすぐに傘を持ってやってきた。翌日の夕方のことだった。僕に傘を返し、それと一緒に小さな便箋を差し出した。
そこには名前と電話番号。お礼がしたいから連絡して、月曜日の昼間なら、いつでも大丈夫だから。とのこと。
夕方のコンビニは忙しく、三十秒ほどのやり取りで終わった。話している時間もなく、一方的にそれだけ告げて、彼女は去っていった。カフェオレ一つだけ買って。
本当はお礼なんてどうでもよかった。貸したのは雄志だし、たまたま余分にあったボロい折り畳み傘だし。
だけど綺麗な彼女ともっと近づきたいという、興味や好奇心はあった。
ーーこの時連絡しなければ。いや、傘を貸さなければ。
きっと湊との関係は、なかっただろう。