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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
…あの日、宮緒は由貴子の拒絶の言葉を聞くなり、無言で茶室を出た。
もちろん由貴子は後を追っては来なかった。

そして宮緒は、翌日に上海に戻った。

…それで、終わりだ。

由貴子は宮緒の詳しい肩書きや勤務先も知らない。
名刺すら渡しはしなかった。
上海で仕事をしていると雑談で告げただけだ。
…あとはあの小さな海の町の旅館…。
懇意にしていると言っただけだから、手掛かりにもなりはしないだろう…。

…と、そこまで思いを巡らせて、宮緒は自分の自惚れさ加減に苦笑する。
なぜ由貴子が自分を捜そうとしていると思うのか…と。
捜す訳がない。
彼女が言う通り、宮緒はただの行きずりの恋…いや、恋となり得たかも分からない。
ただの一夜の火遊びなのだ。
本人がそう言っていたではないか。

…今頃はあの若く優秀そうな医師と再婚しているに違いないのだ。
胸の奥底がずきりと痛んだ。

窓の外の街の喧騒が、微かに伝わってくる。
美しい茜色ともラベンダー色ともつかぬ幻想的な空の色…。
…マジック・アワー…。
華やかな国際都市上海が、別の顔を見せ始める時間帯だ。

…今日は仕事にならないな。
小さくため息を吐く。
開いたままのノートパソコンを、静かに閉じる。

大口のヨーロッパからの団体客のチェックインも無事に済んだようだし、帰ろう…。

宮緒は内線で秘書のミズ・李に退社の旨を告げると、執務室を後にした。

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