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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
「おはようございます。
ミスターミヤオ」
ミズ・李がきりりとした黒いスーツ姿で執務室に現れた。
黒縁の眼鏡は彼女のトレードマークだ。

「おはよう、李さん。
今日のランチミーティングは予定通りかな?」
ノートパソコンでメールをチェックしながら尋ねる。
「はい。予定通りです。
…あの、ミスター…」
いつもは曖昧な話し方をしないミズ・李が珍しく歯切れ悪く口ごもる。
「どうしたの?」
「…スイートルームのお客様は、先ほどお発ちになられましたけれど…」

…ああ…と、ノートパソコンを閉じる。
先ほど別れを惜しんだ由貴子の白檀の薫りと、口唇の柔らかさが胸に蘇る。
「ペニンシュラに荷物を纏めに行ったよ。
…済まないが今日は少し早めに退社させてもらうよ」
「…それは構いませんが…」
ミズ・李はわざとらしくため息を吐いてみせた。

「リーフォアが泣いておりましたよ…」
「え?」
「鈍い方ですね。
リーフォアはミスターが好きだったんですよ。
…まあ、叶わぬ恋と最初から諦めてはいましたけれどね」
「…ああ。…そうか…」
まだあどけない雛菊のような少女の貌が思い浮かぶ。
…まさか、恋されていたとは気づかなかった。

「それなのに今朝、リーフォアにルームサービスのご朝食を届けさせてしまって…。
可哀想なことをしましたわ…」
…泣いておりましたのよ、厨房で…。

ミズ・李の言葉を聞きながら、宮緒は後悔のため息を吐いた。
「それは悪いことをした。
ほかのルームメイドに頼めばよかったな。
…リーフォアは気働きがするからつい…」

…由貴子への朝食を運んで貰うのと、ショッピングモールで婦人物のワンピースを購入してもらうのも頼んでしまったのだ。

…由貴子の高価なチャイナドレスは昨夜の情交でもはや使い物にならないほどだったからだ。

朝食のトレイは部屋の入り口で宮緒が受け取った。
しかし、リーフォアは見たはずだ。
…ホテルのバスローブを身に纏い、ぼんやりと対岸の高層ビル群を眺める由貴子を…。

「…ミスターのこいびと…ですか…?」
たどたどしい日本語で尋ねられ、
「ああ。そうだよ。日本から来てくれたんだ。
…そうだ。しばらく上海に滞在するからお勧めのカフェなんかがあったら教えてくれ」
と、無邪気に答えてしまった。
「…すごく…きれいなひと…」
リーフォアはそう言ってややぎこちなく笑った…。




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