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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
遅めの晩餐は近所にあるフランス租界のこじんまりとした家庭的な上海料理のレストランで摂った。
…あれから二度も濃密に愛し合ったため、すっかり遅い時間になってしまったのだ…。
その店は、まるでフランスの小さな街の可愛らしい一軒家のような洒落た外観の店だが、本格的な上海料理を出す。
六十代のシェフは生粋の上海人で、妻がフランスのブルゴーニュ出身といういかにもユーラシアンな夫婦の作り出す料理と空間はシノワズリでもあり西洋でもあり…フランス租界らしさが溢れていて、宮緒もよく訪れる常連の店であった。
愛嬌のある料理店の妻は由貴子を見て、宮緒に目配せをした。
「こんなに美人な恋人がいたら、誰にも靡かないはずよねえ…」
…宮緒の上海での清廉ぶりを図らずも証明してくれたのだ。
二人は和やかに食事を進めた。
鮑と蟹味噌のスープから始まり、ちょうど時期である上海蟹の卵炒めやあっさりとして上品な海老の塩味炒め、蕩けるように柔らかなトンポーロー、薫り高い蓮の葉に包まれた粽などは日本人の味覚に合った繊細な味で、由貴子もとても喜んで箸が進んでいた。
「どれもとても美味しいわ。
…娘にも食べさせてあげたいくらい…」
そう朗らかに微笑う由貴子は優しい母親の表情をしていた。
「娘さんのこと、気になる?」
嫌味ではなく尋ねる。
宮緒は優しく愛情深い母親である由貴子が好きだからだ。
「…ええ、やはりね…。
一人娘で随分と甘やかしてしまったところがあるから…」
…でも…
と、宮緒を見上げて嬉しそうに笑った。
「…でも、娘には優しくて思いやり深い息子のお嫁さまがいてくれるから大丈夫。
瑠璃子は毎日彼女の美味しい手料理を食べているから、心配はないわ」
宮緒の象牙の箸がかちゃりと白磁の皿の端に触れ、僅かな音を立てた。
…あれから二度も濃密に愛し合ったため、すっかり遅い時間になってしまったのだ…。
その店は、まるでフランスの小さな街の可愛らしい一軒家のような洒落た外観の店だが、本格的な上海料理を出す。
六十代のシェフは生粋の上海人で、妻がフランスのブルゴーニュ出身といういかにもユーラシアンな夫婦の作り出す料理と空間はシノワズリでもあり西洋でもあり…フランス租界らしさが溢れていて、宮緒もよく訪れる常連の店であった。
愛嬌のある料理店の妻は由貴子を見て、宮緒に目配せをした。
「こんなに美人な恋人がいたら、誰にも靡かないはずよねえ…」
…宮緒の上海での清廉ぶりを図らずも証明してくれたのだ。
二人は和やかに食事を進めた。
鮑と蟹味噌のスープから始まり、ちょうど時期である上海蟹の卵炒めやあっさりとして上品な海老の塩味炒め、蕩けるように柔らかなトンポーロー、薫り高い蓮の葉に包まれた粽などは日本人の味覚に合った繊細な味で、由貴子もとても喜んで箸が進んでいた。
「どれもとても美味しいわ。
…娘にも食べさせてあげたいくらい…」
そう朗らかに微笑う由貴子は優しい母親の表情をしていた。
「娘さんのこと、気になる?」
嫌味ではなく尋ねる。
宮緒は優しく愛情深い母親である由貴子が好きだからだ。
「…ええ、やはりね…。
一人娘で随分と甘やかしてしまったところがあるから…」
…でも…
と、宮緒を見上げて嬉しそうに笑った。
「…でも、娘には優しくて思いやり深い息子のお嫁さまがいてくれるから大丈夫。
瑠璃子は毎日彼女の美味しい手料理を食べているから、心配はないわ」
宮緒の象牙の箸がかちゃりと白磁の皿の端に触れ、僅かな音を立てた。