この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
船を降りると、町のメインストリート…石畳みの北大街をのんびりと散策した。
朱家角は角煮入りの粽が有名だ。
賑わう屋台で蒸籠からもくもくと白い湯気を上げている蒸したての粽を買う。
由貴子に他の観光客のように歩きながら食べようと提案する。
「…お行儀が悪いわ…」
躊躇う由貴子に手にした粽の竹皮を剥き、
「由貴子、あ〜んして」
と子どものように食べさせてやろうとする。
「ここでは少々お行儀が悪い方が、美味しく食べられるよ」
少し躊躇したのち、由貴子は宮緒が差し出した角煮がごろりと入った粽を口にした。
「美味しい…!八角の香りがなんとも言えないわ。
…本当ね。郷に入っては郷に従え…だわ」
素直な歓声を上げ、笑いかける由貴子が愛おしい。
由貴子は裕福で厳格な家庭で育ったいわゆる箱入り娘だ。
二十五歳で二十ほど年上の兄の親友の後添えになったのも、十代後半に結核を病んでしまい殆ど家の外に出ず、両親や兄に大切に育てられて来たからだろう。
由貴子の両親にしてみれば、若い男と結婚して最初から苦労するより、身元も確かな酸いも甘いも噛み分けた成熟し知的で包容力も名誉も資産もある男と添わせた方が安心だ…という算段があったのではないか。
由貴子は昔の深窓の令嬢のように礼儀作法、茶道、華道、などのお稽古ごとがしっかりと身についている大人の女性だ。
…けれど、嫁いでから育児や…夫を亡くしてからは茶道教室の師範としての仕事など禁欲的に多忙に過ごしてきたので、遊んだことは皆無だったのだろう。
だからこんな時の反応が子どものように愛くるしく、新鮮で…宮緒は新しい由貴子の側面を発見するたびに、じわじわと彼女への愛が深くなる自分を感じるのだった。
朱家角は角煮入りの粽が有名だ。
賑わう屋台で蒸籠からもくもくと白い湯気を上げている蒸したての粽を買う。
由貴子に他の観光客のように歩きながら食べようと提案する。
「…お行儀が悪いわ…」
躊躇う由貴子に手にした粽の竹皮を剥き、
「由貴子、あ〜んして」
と子どものように食べさせてやろうとする。
「ここでは少々お行儀が悪い方が、美味しく食べられるよ」
少し躊躇したのち、由貴子は宮緒が差し出した角煮がごろりと入った粽を口にした。
「美味しい…!八角の香りがなんとも言えないわ。
…本当ね。郷に入っては郷に従え…だわ」
素直な歓声を上げ、笑いかける由貴子が愛おしい。
由貴子は裕福で厳格な家庭で育ったいわゆる箱入り娘だ。
二十五歳で二十ほど年上の兄の親友の後添えになったのも、十代後半に結核を病んでしまい殆ど家の外に出ず、両親や兄に大切に育てられて来たからだろう。
由貴子の両親にしてみれば、若い男と結婚して最初から苦労するより、身元も確かな酸いも甘いも噛み分けた成熟し知的で包容力も名誉も資産もある男と添わせた方が安心だ…という算段があったのではないか。
由貴子は昔の深窓の令嬢のように礼儀作法、茶道、華道、などのお稽古ごとがしっかりと身についている大人の女性だ。
…けれど、嫁いでから育児や…夫を亡くしてからは茶道教室の師範としての仕事など禁欲的に多忙に過ごしてきたので、遊んだことは皆無だったのだろう。
だからこんな時の反応が子どものように愛くるしく、新鮮で…宮緒は新しい由貴子の側面を発見するたびに、じわじわと彼女への愛が深くなる自分を感じるのだった。