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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
「宮緒さん!これ、美味しそう!」
由貴子が無邪気に屋台を覗き、宮緒の袖を引っ張った。
ストローを挿して熱々のスープを吸う小籠包、エッグタルト、サンザシの砂糖漬け…。
子どものように頬張ってははしゃいでいた。
その様子に宮緒は眼を細める。
「楽しいわ。私、こんなに食べ歩きをしたのは生まれて初めて」
タピオカ入りのジャスミン茶を飲みながら、由貴子が微笑んだ。

屋台の色鮮やかな金魚や小鳥屋の店先の竹籠に入った人の声真似をする九官鳥を見て笑ったり…時間は瞬く間に過ぎていった。

そのあとは朱家角きっての有名な茶館、阿婆茶楼で中国茶を楽しんだ。
宮緒は癖のない緑茶龍井茶を、由貴子は湖南省の小島、君山でしか作られていない希少な黄茶、君山銀針茶をオーダーした。
お茶受けのドライフルーツやナッツなどは無料で好きなだけ頼める。
サンザシや向日葵の種、南瓜の種などがいかにも中国的だ。
砂糖漬けの梅を烏龍茶で煮た茶梅は特に美味しい。

由貴子は綺麗な所作でお茶を淹れてくれた。
「…中国茶はまず薫りを楽しんでね。
蓋の裏の薫りも嗅ぐのよ。
そして色を愛でて…。
一杯、二杯三杯と味が変わってくるのも楽しみのひとつなの」
繊細かつ芳醇な薫りが口一杯に広がる。
身体の中からリフレッシュされるような気持ちの良さに満たされる。
「…美味しい…。
中国茶って、こんなに美味しかったんだね」
「でしょう?私、本場のお茶をいただくまでは日本のお茶が一番だと思っていたの。
…でも上海に来てから、目から鱗が落ちるように中国茶の魅力に目覚めたわ。
まだまだ知らないことがたくさんあって、それを学べる…て幸せ。
…貴方のおかげよ…」
由貴子は宮緒の手にそっと触れた。

「…ありがとう、宮緒さん」
温かな眼差し…優しい言葉…。
「…由貴子…。
僕の方こそ…」
胸が一杯になる。

…このひとは僕に愛と生きる喜びを与えてくれた。
愛を諦めかけていた僕に…
この白く美しい手で、僕を包んで…。

由貴子の手を握り返し、頰に押し当てる。
「…愛しているよ…」
言葉はそれしか見つからなかった。

バルコニーに吊り下げられた銀細工の鳥籠の金糸雀が美しい声で短く鳴いた。

階下の運河を行く船頭の掛け声が夕風に乗り、のどかに流れてきた…。










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