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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
古い寺院、円津禅院の前にかかる泰安橋からの眺めは、心に染み入るような郷愁的な美しさに満ちていた。
…秋の夕陽が禅寺の瓦屋根を橙色に輝かせ、辺りの空を茜色のグラデーションに染めてゆく。

二人は橋の中程に立ち、運河と…その両脇に広がる長閑な水郷の町を見下ろしていた。

静かに暮れゆく川縁の風景から、由貴子へと向き直る。
「…由貴子。
君に返さなくてはならないものがある…」
「なあに?」
宮緒はジャケットの内ポケットから、翡翠の簪を取り出した。
「…あ…」
由貴子が眼を見張る。

「…色っぽいシンデレラ…。
枕の下に忘れて行ったね…」
…初めて会ったこの美しいひとと、激しく狂おしく情慾を交わした夜…。
朝起きると、由貴子の姿は影も形もなかった…。
美しき空蝉の抜け殻は、この翡翠の簪だけだった…。

「…これ…持っていてくれたのね…」
しみじみとした口調で呟く。
「うん。君との唯一の接点だったからね…。
…お守りのように肌身離さず持っていたよ…」
「…宮緒さん…」
由貴子の美しい京雛のような貌が切なげに震えた。

…その白い手を引き寄せ、夕陽を映し幽かに琥珀色と化した美しい瞳を見つめる。

「…由貴子。僕と結婚してください」
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