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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
「…まあ、それでは片岡様が宮緒さんのお兄様なのですね?」
由貴子は驚きながら、白磁に芍薬の絵柄が描かれた蓋碗に桂花烏茶を丁寧に淹れた。
…気持ちをリラックスさせる効果のある…夜にはぴったりなお茶であった。
それを美しい所作で片岡の前に差し出す。

「片岡直人と申します。
弟がお世話になっております」
片岡は悠然とソファに座り、にこやかに挨拶をする。
そうして、由貴子に手を差し伸べた。
「…清瀧由貴子と申します。
初めまして…」
おずおずと差し出した由貴子の白い手を大きな手が包み込み…片岡は恭しくその白絹のような甲に軽くキスをした。
宮緒はぴくりと眼鏡の奥の眉を顰めた。

「…あ…」
驚いて手を引っ込めようとする由貴子を押しとどめ、片岡は由貴子を見つめ、眼を輝かせた。
「…本当にお美しい方だ。
弟が夢中になるのも納得です。
…お美しい上に上品で優雅で…そのチャイナドレスが良くお似合いだ…」
片岡の一見冷ややかな眼差しが熱を帯びたように由貴子をじっくりと眺めた。

…今夜の由貴子のチャイナドレスは京藤色の地に薔薇が描かれた大変に艶めいたものだった。
ロングスカートのスリットから覗く脚も白く形が良く実に艶かしい…。

宮緒は気が気ではなかった。
兄は元々大変に好色であり、名うてのプレイボーイである。
美しい女には眼がない。
好みの女性には臆せずに賞賛し、大胆に口説く癖があるのだ。
…もっとも、妻の不祥事や澄佳との別離でかなり大人しくはなったが、本質は変わってはいないだろう。
兄の周りには依然として華やかな女性たちの影がちらついていた。

片岡は今にも由貴子を口説き落とそうとするかのように、情熱的に由貴子を見つめ返していた。
「…そ、そんな…」
不躾とも捉えられそうなぎりぎりの強い眼差しに、由貴子は眼を伏せてしまう。
宮緒は由貴子を自分の傍らに座らせ、敢えて手を握る。
そうして、さりげなく話題を変えた。

「兄さん。…ゆっくりしていただきたいのですが、時間も時間です…。お疲れのことでしょう。
お泊まりはどちらのホテルですか?」
宮緒の質問に、片岡は泰然と意外な答えを返したのだ。
「まだ予約はしていない。
…そうだ。真紘。
ここに泊めてくれないか? 」






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