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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
「面白いお兄様ね…」
引き上げた主寝室、紫檀のドレッサーの前で艶やかな黒髪にブラシを掛けながら由貴子が思い出し笑いをした。

居間で、片岡は由貴子が煎れたお茶を褒めちぎり、そこから中国茶についての楽しく珍しいこぼれ話やエピソードを披露した。
それらは由貴子を魅了したようで、淑やかな彼女にしては珍しく声を立て笑っていた。


…由貴子は白地に桔梗の花模様を染め抜いた浴衣を身につけている。

…『寝る時は、浴衣でないと落ち着かないの…』
初めてこのアパルトマンに来た夜、あえかに…匂い立つように微笑った彼女を思い出す…。

「…うん…そうだね…」
…兄は話題も豊富で社交的だ。
女性たちを惹きつけるのは容姿や肩書きだけでなく話術も巧みだからだ。
大人しい宮緒は少年時代からそんな兄に憧憬を抱いていた。

「…兄さんは僕と違って、社交的だし明るいし交友関係も華やかだしね…。
…腹違いの兄弟だから似ていないんだよ…」
由貴子には、自分に母親違いの兄がいることを以前にさらりと話していた。
その兄が上海のホテルのCEOであることも。
…そして、自分が愛人の子であることも…。

由貴子は驚くこともなく
「…そうなの…」
と静かに頷いただけだった。

由貴子が鏡台から振り返り、宮緒を見上げた。
「…お兄様は確かに魅力的な方だわ。
でも私は、貴方の方が好きだわ」
由貴子のしっとりと潤んだ黒い瞳が、優しく微笑んだ。



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