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星逢いの灯台守
第1章 名も知らぬ薔薇
片岡は白いナプキンで唇の端を拭い、ワインを一口飲んだ。

「…年は同い年。東京女子大卒。趣味はテニスとスキーとゴルフ。
ミス・ユニバースのファイナリスト。
外資系化粧品会社の広報勤務。…あれはコネ入社だな。
結婚したら退社するらしい。
…あとは…家は成城。持ち家。馬鹿でかいゴールデンレトリバーが二匹。
そうだ。一番大事なことを忘れていた。
大手メガバンクの頭取の一人娘。
…かな」
見合い写真に添えられた釣書を読み上げるようだった。
…感情が籠らない中に、やや皮肉混じりな文言と声色が混ざる。

「…あの…」
宮緒は戸惑う。

片岡が初めて、やや憂鬱そうに唇を歪めた。
「絵に描いたような政略結婚だ。
俺がリゾート会社を立ち上げたいと漏らしたら親父が、どこからか探してきやがった。
事業立ち上げにはまず融資銀行を探せと。
勝手に先方に見合い写真を送りつけて…。
…あっちは俺を気に入ったらしく見合いをセッティングされ、あっと言う間に婚約となった。
さすが親父は裸一貫から事業を起こした叩き上げだよな。
結婚に私情は挟まない。損得勘定だけで動く爺さんだ。
…6月が挙式だ。披露宴は帝国ホテル…。
来たいか?来たいなら来ても構わないぞ」
「…もちろん行きませんけど…あ、あの…!」
慌てて口を挟む。
「…兄さんと…合いそうな方ですか?」

片岡は柔らかな仔牛のフィレステーキを口に放り込みながら、表情を変えずに返した。
「さあな。傲慢が服を着て歩いているような女だ。
…案外、俺とお似合いかもな」

「…はあ…」
…結婚て…そんなものなのだろうか…。
恋をしたことがない宮緒には良く分からない。
…でも…。

「真紘」
「はい」
「愛だ恋だなんてものは、まやかしだ。
結婚は打算と妥協だ。お互いwin winならそれでいい。
…お前もいつか、分かる日が来る」

「…はい…」
自信に満ちた冷ややかな貌…けれどどこか寂寥感のある眼差しの兄に宮緒はそれ以上、何も言えなかったのだ。
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