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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
レストランで選び抜かれた最高級の上海料理の数々を和やかに堪能したのち、三人は最上階にあるナイトクラブに移った。


…巨大な一枚硝子の向こうに見えるのは、黄浦江を挟んで聳え立つ浦東の高層ビル街だ。
近未来都市のようなビルディングが建ち並び、華やかなイルミネーションをその身に纏わせて、きらきらと光り輝いている。
ここからはまさに宝石箱をひっくり返したように眩く煌めく100万ドルのメトロポリスの夜景が楽しめるのだ。

窓際のテーブルに着き、三人はヴーヴ・クリコで乾杯をする。
ローズラベルの綺麗なサーモンピンク色のシャンパンが特別な時間を彩る。

…巧みなピアノの生演奏の中、金髪碧眼の美しいクラブ歌手が物憂げなハスキーな声で、古いジャズナンバーを歌っていた。
広いフロアはダンスホールも兼ねていた。
西洋人のカップルが濃密に見つめ合いながら、身体を引き寄せ合う。
…どこか頽廃的で秘密めいた雰囲気が漂う高級クラブなのだ。

「それにしても由貴子さんはお美しく若々しい。
とても中学生のお嬢さんがいらっしゃるようには見えませんよ」
片岡が陽気に話しかける。
「…そんな…。私なんてもう年寄りですわ…」
白い頰をうっすらと桜色に染めながら眼を伏せる。
「私より二つ歳下でしょう?ちっとも年寄りなんかじゃない。
お美しくて上品で優雅で…まさに日本女性の美徳を集めたような方だ」
「…兄さん…」
宮緒は気が気ではない。
兄からは由貴子を口説きにかかっているような雰囲気を感じるからだ。

片岡は宮緒の肩を叩く。
「いや、本当に羨ましいよ。
…付かぬ事をお聞きしますが、弟とはどうやって知り合われたのですか?
貴女と真紘と…その繋がりがどうしても私には分からないのですよ」
「兄さん、それは…」

慌てて口を挟もうとする宮緒を他所に、由貴子は三日月の煌めきを映す夜の湖のように潤んだ黒い瞳で静かに片岡を見上げた。
「…千葉の小さな海の町の駅舎で…。
私、弟さんを誘惑したのです。
…悪い女でしょう?」
「由貴子…」

片岡は眼を細めた。
「…ほう…。それは興味深い話だ。
貴女のような如何にも慎み深い淑やかそうな女性が?」
「…ええ。でも、ひとは見かけによらない…と申しますでしょう?
ひとなんて、外見だけでは推し量れないことばかりですのよ」
由貴子の謎めいてひんやりとした美貌がふっと微笑んだ。





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