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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
「…ダンスがお上手ですね」
男は優しく囁いた。
いや、上手いのは男のリードだと由貴子は思った。
片岡は、ぎこちなくなりがちな由貴子のステップを軽やかにサポートした。
「…昔、少しだけ…習いました。
亡くなった主人と主人の奥様は新婚時代によくダンスを踊っていたそうなのです。
それで私にも一緒に踊りたいと言ってくれたので、主人に内緒でお教室に通って…」
「可愛らしい奥様だ」
笑った涼やかな目元に仄かな宮緒の面影を見出す。
胸の内がじわりと温かくなる。
「ご主人を愛していらしたのですね」
「…ええ。
…年齢が親子ほど離れておりましたので、恋愛感情ではなかったかもしれませんが、私は主人をとても尊敬していました。
まだ何もできない未熟な私を優しく見守ってくれました。
…何より私に娘という大切な宝物を授けてくれました」
「ご主人が亡くなられたあとはお一人でお嬢さんを?」
その一見冷ややかな眼差しには慈しみの色が浮かんでいた。
「…ええ。でも、私には優しく頼りになる義理の息子がおりましたし、主人は私と娘が暮らすのに困らない充分な財産を遺してくれました。
私はとても恵まれていました。
…だから…」
由貴子は、片岡を真っ直ぐに見つめた。
「…だから、これ以上過分に幸せになろうとは思ってはおりません」
片岡が眉を上げた。
「…と仰ると?」
由貴子は自分に語りかけるように静かに告げた。
「宮緒さんのことを愛しています。
だからこの上海で、お別れするつもりで…私はここにまいりました」
男のステップが止まった。
…あの街灯の下で、また会おう…
昔のように…
愛しい人…
男は優しく囁いた。
いや、上手いのは男のリードだと由貴子は思った。
片岡は、ぎこちなくなりがちな由貴子のステップを軽やかにサポートした。
「…昔、少しだけ…習いました。
亡くなった主人と主人の奥様は新婚時代によくダンスを踊っていたそうなのです。
それで私にも一緒に踊りたいと言ってくれたので、主人に内緒でお教室に通って…」
「可愛らしい奥様だ」
笑った涼やかな目元に仄かな宮緒の面影を見出す。
胸の内がじわりと温かくなる。
「ご主人を愛していらしたのですね」
「…ええ。
…年齢が親子ほど離れておりましたので、恋愛感情ではなかったかもしれませんが、私は主人をとても尊敬していました。
まだ何もできない未熟な私を優しく見守ってくれました。
…何より私に娘という大切な宝物を授けてくれました」
「ご主人が亡くなられたあとはお一人でお嬢さんを?」
その一見冷ややかな眼差しには慈しみの色が浮かんでいた。
「…ええ。でも、私には優しく頼りになる義理の息子がおりましたし、主人は私と娘が暮らすのに困らない充分な財産を遺してくれました。
私はとても恵まれていました。
…だから…」
由貴子は、片岡を真っ直ぐに見つめた。
「…だから、これ以上過分に幸せになろうとは思ってはおりません」
片岡が眉を上げた。
「…と仰ると?」
由貴子は自分に語りかけるように静かに告げた。
「宮緒さんのことを愛しています。
だからこの上海で、お別れするつもりで…私はここにまいりました」
男のステップが止まった。
…あの街灯の下で、また会おう…
昔のように…
愛しい人…