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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
バルコニーからは美しくも懐古的なフランス租界の夜の景色が広がる。
…まるで20世紀初頭にタイムスリップしたかのようなヨーロッパとアジアが不思議に融合した景色だ。
石畳み、当時のままのガス燈、アール・ヌーヴォー様式の意匠のアパルトマンやカフェの建物…。

由貴子は美しいチャイナドレス姿のまま、膝を深く折って優雅にお辞儀をする。
「…私と、ダンスを踊ってくださる?」
宮緒は肩を竦めて、苦笑する。
「僕は兄さんみたいに踊れないよ。
…高等部で英国人のダンス教師に少しボールルームダンスを習っただけだ」
「構わないわ。貴方と踊りたいの」
宮緒は由貴子のか細い腰に手を回し、愛おしげに引き寄せた。

広々とした石造りのバルコニーは、そのまま舞踏室になった。
秋の夜風を肌で感じながら、見つめ合い二人は踊る。

「…さっきは兄さんに少し嫉妬した…。
君と兄さんがとてもお似合いに見えて…」
…年の頃も、二人の持つ成熟した大人の洗練された美しさも、似合いの夫婦のように見えて落ち込んだのだ…と、正直に告げる。

由貴子は清かな花が咲き染めたように優しく笑った。
「お兄様は魅力的な方だわ。
でも私は貴方が好き…。
貴方のすべてが大好き。
貴方の嫌いなところを探すのが難しいくらいに大好き。
貴方は私の人生に輝きと色彩を与えてくれた。
…いいえ、何より…
私に愛を教えてくれたわ。
切なくて苦しくて…そして甘く愛おしい愛を…。
…だから…」
由貴子の射干玉の闇夜を溶かしたような美しい瞳が、宮緒をひたりと見つめた。
「…だから、私と結婚してください」
宮緒の脚が止まった。


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