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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
「…今、なんて…」
掠れた声で問い返す。

「私と、結婚してください。宮緒さん」
瞬きもせずに、しっとりと濡れた黒い瞳が見つめ返す。
「…由貴子…!」
信じられないように眼鏡の奥のアーモンド型の端整な瞳が見張られる。
「…私、本当はこの上海で、貴方との美しい思い出を作ってお別れするつもりでした」
「由貴子…?」
由貴子が哀しげに微笑んだ。
「…年甲斐もなく、貴方に夢中になってしまって…。
でもこんな関係、きっと長続きはしない…。
私は変わらなくても、貴方は変わる。
貴方は私よりずっと若いし…ほかに心ときめかせるひとが現れるかも知れない…ううん…きっと現れる…。
そうなった時に惨めな想いをするのは私…。
…傷つくのが怖くて、自分からさよならを言うつもりだったの…」
「…由貴子…」
言いかける男の美しい貌の稜線を愛おしげに指で辿る。
「…でも、気がついたの。
怖がって逃げ腰な私に本当の幸せなんて来ない…て。
欲しいものは欲しいと向き合わないと駄目なのだ…て」
宮緒の瞳が潤む。
震える声が叙情的に告げる。
「…君は…こんなにも美しいのに…。
僕の方がずっと君に夢中なのに…」
「私だって貴方に夢中だわ。
…貴方と出会ってから私は十代の女の子みたいにいつもどきどきしているもの…」
「…由貴子…!」
愛おしさが胸に溢れ、堪らずに由貴子を強く抱きしめる。
…芳しい…高貴な白檀の薫りが今はとても近しい…。
「…愛しているわ…宮緒さん」
タキシードの胸元に貌を埋める由貴子にそっと微笑いかける。
「…そろそろ名前を呼んでくれないかな…」

由貴子が静かにその白い花のような美しい貌を上げ、はにかむように宮緒を見上げた。
「…真紘さん…」
小さな愛おしい綺麗な貌を両手で包み込む。
「…愛しているよ…。由貴子…。
…結婚しよう…」
「…真紘さ…」
薄く開いた花の唇をそっと奪い、甘く濃密な口づけを交わす。

…いつか街灯の下で会いましょう…
昔のように…
愛おしいひとよ…

あの愛の唄が、微かに…夢のように蘇った…。


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