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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
「…それはおめでとうございます」
ミズ・李が黒縁の眼鏡を押し上げ、小さく微笑みながら祝いの言葉を述べた。
週明け、宮緒は執務室でさらりと結婚の報告をしたのだ。
「あのお綺麗な方とご一緒になられるのですね。
それは良かったですわ。
…リーフォアは…まあ、少しショックを受けるでしょうが、仕方ありませんものね。
…で?お式などはお決まりですか?」
宮緒はミズ・李から先月分の顧客リストを受け取りながら答える。
「いや、式は挙げないよ。
籍もまだ当分入れないし。
要は事実婚てやつだ」
おや…という表情でミズ・李がくっきりとした眉を上げた。
有能な秘書なので、宮緒たちの訳ありな様子は直ぐに察したようだ。
「でも奥様はこのままずっと上海におられるのでしょう?」
「…そうだね。
今は中国茶の勉強があるからしばらくはいるが、そのあとは…。
何しろ彼女は自宅で茶道教室を開いているし…。
実は亡くなったご主人との間に中学生の娘さんもいるんだ。
だからずっとこのまま上海に…という訳にはいかないだろうな」
少し寂しげに男は微笑った。
「…まあ、そうなんですの…」
ミズ・李は驚き、眼を見張った。
彼女は改めて、この美男の総支配人を見つめる。
…すらりとした長身で、繊細に整った容姿をしたこの日本人の男は、穏やかで優しく常に冷静で…周囲には淡々とした印象を与えていた。
けれど、その静謐に見えた外見の内側には滾るような熱い情熱があったのだと気づき、驚きを禁じ得なかったのだ。
…子持ちの年上の美しき未亡人との恋、そして結婚…。
けれどその結婚もまだ山あり谷あり…の様子のようだ。
なぜなら宮緒の端正な貌には、悩みを抱えているような…思案げな表情が浮かんでいたからだ。
「…支配人?」
気遣わしげなミズ・李に、宮緒は独り言のように告げた。
「…言うべきか言わざるべきか…。
それが問題だな…」
ミズ・李は敢えてそれには触れずに、励ますように告げた。
「…すべては支配人のお心のままに…。
人間、結局はなるようにしかならないのですから…」
ミズ・李が黒縁の眼鏡を押し上げ、小さく微笑みながら祝いの言葉を述べた。
週明け、宮緒は執務室でさらりと結婚の報告をしたのだ。
「あのお綺麗な方とご一緒になられるのですね。
それは良かったですわ。
…リーフォアは…まあ、少しショックを受けるでしょうが、仕方ありませんものね。
…で?お式などはお決まりですか?」
宮緒はミズ・李から先月分の顧客リストを受け取りながら答える。
「いや、式は挙げないよ。
籍もまだ当分入れないし。
要は事実婚てやつだ」
おや…という表情でミズ・李がくっきりとした眉を上げた。
有能な秘書なので、宮緒たちの訳ありな様子は直ぐに察したようだ。
「でも奥様はこのままずっと上海におられるのでしょう?」
「…そうだね。
今は中国茶の勉強があるからしばらくはいるが、そのあとは…。
何しろ彼女は自宅で茶道教室を開いているし…。
実は亡くなったご主人との間に中学生の娘さんもいるんだ。
だからずっとこのまま上海に…という訳にはいかないだろうな」
少し寂しげに男は微笑った。
「…まあ、そうなんですの…」
ミズ・李は驚き、眼を見張った。
彼女は改めて、この美男の総支配人を見つめる。
…すらりとした長身で、繊細に整った容姿をしたこの日本人の男は、穏やかで優しく常に冷静で…周囲には淡々とした印象を与えていた。
けれど、その静謐に見えた外見の内側には滾るような熱い情熱があったのだと気づき、驚きを禁じ得なかったのだ。
…子持ちの年上の美しき未亡人との恋、そして結婚…。
けれどその結婚もまだ山あり谷あり…の様子のようだ。
なぜなら宮緒の端正な貌には、悩みを抱えているような…思案げな表情が浮かんでいたからだ。
「…支配人?」
気遣わしげなミズ・李に、宮緒は独り言のように告げた。
「…言うべきか言わざるべきか…。
それが問題だな…」
ミズ・李は敢えてそれには触れずに、励ますように告げた。
「…すべては支配人のお心のままに…。
人間、結局はなるようにしかならないのですから…」