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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
…私は、どうすればいいのだろう…。
フランス租界の茶房…春風楼の紫檀の長椅子に座り、由貴子はぼんやりと考えこんでいた。
風雅な中国意匠の窓からは秋の爽やかな風とともに外を行き交う中国人の賑やかな騒めきが伝わってくる。

中国茶芸教室は終わっていたが、学習に熱心な由貴子はいつも残っておさらいをしている。
中国茶の世界は奥深く、習い始めたばかりの由貴子にはまだまだ勉強してもし足りないことばかりだったからだ。

…しかし今は、一人になる時間が欲しくて、授業が終わっても留まっているのが本音だ。
宮緒のホテルに帰れば、周りのスタッフの眼が気になる。
晩の食事は宮緒と摂るようにしていたが、どうしても沈黙に包まれる時間が多くなりがちで、それも由貴子には気鬱の素であった。
ホテル代も決して安くはない。
由貴子が支払うと言っても、彼は頑として承知しない。
宮緒に迷惑をかけているのも申し訳なく、情けなく思うのだ。

宮緒が悪いのではないことはよく分かっていた。
…いや、誰も悪くはない。
単に自分が狭量なのだ。

自分は、嫉妬しているのだ。
柊司だけでなく、宮緒の心までも奪っていた澄佳を…。
彼女が羨ましく、妬ましいのだ。

…もし、宮緒と自分が結婚したとして…
また、宮緒が澄佳に心を動かされはしないかと…
そんな醜い猜疑心にも苛まれているのだ。

…こんな醜い私を…。
あのひとはずっと愛してくれるのだろうか…。
そのうち、愛想を尽かし去って行ってしまうのではないだろうか…。

心の中に再三立ち昇る不安から、由貴子はため息を吐いた。


「…なぜため息など吐かれるのですか?
美しい貴女に似合いませんね」

冷涼とした美しい声が響いた。
はっと声の方に振り返る。

「…朱先生…」
…そこには茶芸教室の主宰の朱浩藍がすらりとした長身に古代紫の長袍を身に纏った姿で佇んでいた。
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