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星逢いの灯台守
第1章 名も知らぬ薔薇
教えられた麻季子の実家は、高級住宅地 成城の中でも取り分け広い敷地に建つ豪奢な屋敷であった。
高い門柱のベルを押すと、初老の家政婦が現れ宮緒をプロムナードから続く庭園に案内した。
「お嬢様はお庭においでです」
…お嬢様…か…。
そんな単語を初めて肉声で聞いた…と、宮緒は感心した。
名前を知らぬ初夏の薔薇の香気が匂い立つ。
庭園の東屋の下、麻季子はベンチに腰掛け、煙草を吸っていた。
…細い外国製のシガレット…。
メンソールの香りが辺りを漂う。
細いストラップの裾の長い黒いキャミソールドレス…。
長い手足はいかにもセレブな女性らしく美しい小麦色に焼け、無造作に垂らした髪は手入れがゆき届き、その容姿は一流の女優のように洗練され、華やかであった。
…けれど、その表情は陰鬱と言っても良いほどで…新婚の妻らしい幸せそうな雰囲気は一切感じられなかった。
「…貴方が宮緒さんね。
直人さんの異母兄弟…」
さして興味を持ったようでもなくちらりと見上げ、尋ねる。
「…はい。初めまして。宮緒真紘です」
折り目正しく頭を下げる宮緒を、見るともなしに見て…不意に尋ねる。
「…ねえ、あのひと。浮気しているでしょう」
驚きを貌に表さないように首を振る。
「存知あげません」
「隠さなくてもいいわ。
…何人女がいるの?いつから?私と結婚する前から?」
麻季子の彫りの深い眼差しが少しずつ険しくなる。
「存じません」
ひたすら首を振る。
…兄には、恋人や愛人の類いが切れたことはない。
麻季子との結婚後も例外ではなかった。
「直人さんは相変わらずモテモテですよ。
トマムのホテルでも直人さんを巡って恋の鞘当てがすごいらしいし…。
ススキノのホステスやらクラブのママやら…。
…東京時代の恋人とも切れてないみたいだし…羨ましいというか何というか…。
あ〜あ…。俺にも直人さんみたいなモテ期来ないかなあ〜」
時折、片岡の父親の代理で様子を見に来る会社の社員が漏らしていたのだ。
社員にとっては兄は御曹司であり、次期社長になるべく人物だから、目が離せないのだろう。
確かに兄の周りには相変わらず交際している女性は多い。
宮緒にもそれを隠そうともしない。
…好色…というより、恋愛ゲームを楽しんでいるような兄であった。
しかし、結婚したら流石に女性達とは手を切るか控えるかと思っていたのだ。
…だが…。
高い門柱のベルを押すと、初老の家政婦が現れ宮緒をプロムナードから続く庭園に案内した。
「お嬢様はお庭においでです」
…お嬢様…か…。
そんな単語を初めて肉声で聞いた…と、宮緒は感心した。
名前を知らぬ初夏の薔薇の香気が匂い立つ。
庭園の東屋の下、麻季子はベンチに腰掛け、煙草を吸っていた。
…細い外国製のシガレット…。
メンソールの香りが辺りを漂う。
細いストラップの裾の長い黒いキャミソールドレス…。
長い手足はいかにもセレブな女性らしく美しい小麦色に焼け、無造作に垂らした髪は手入れがゆき届き、その容姿は一流の女優のように洗練され、華やかであった。
…けれど、その表情は陰鬱と言っても良いほどで…新婚の妻らしい幸せそうな雰囲気は一切感じられなかった。
「…貴方が宮緒さんね。
直人さんの異母兄弟…」
さして興味を持ったようでもなくちらりと見上げ、尋ねる。
「…はい。初めまして。宮緒真紘です」
折り目正しく頭を下げる宮緒を、見るともなしに見て…不意に尋ねる。
「…ねえ、あのひと。浮気しているでしょう」
驚きを貌に表さないように首を振る。
「存知あげません」
「隠さなくてもいいわ。
…何人女がいるの?いつから?私と結婚する前から?」
麻季子の彫りの深い眼差しが少しずつ険しくなる。
「存じません」
ひたすら首を振る。
…兄には、恋人や愛人の類いが切れたことはない。
麻季子との結婚後も例外ではなかった。
「直人さんは相変わらずモテモテですよ。
トマムのホテルでも直人さんを巡って恋の鞘当てがすごいらしいし…。
ススキノのホステスやらクラブのママやら…。
…東京時代の恋人とも切れてないみたいだし…羨ましいというか何というか…。
あ〜あ…。俺にも直人さんみたいなモテ期来ないかなあ〜」
時折、片岡の父親の代理で様子を見に来る会社の社員が漏らしていたのだ。
社員にとっては兄は御曹司であり、次期社長になるべく人物だから、目が離せないのだろう。
確かに兄の周りには相変わらず交際している女性は多い。
宮緒にもそれを隠そうともしない。
…好色…というより、恋愛ゲームを楽しんでいるような兄であった。
しかし、結婚したら流石に女性達とは手を切るか控えるかと思っていたのだ。
…だが…。