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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
朱は茶道具を竹茶盤に乗せ、それを紫檀の長机に置いた。
茶盤は上に茶壺…いわゆる日本の急須にあたるもの…を乗せ、湯を上からかけて温めたり、溢れた湯を零したりするときに使う受け皿のようなものだ。

朱はいつもお茶を工夫式で淹れる。
工夫とは中国語で手間を掛けるという意味だ。
茶器を揃え丁寧に手間暇掛けてお茶を淹れ、最後の一滴まで抽出し香りと味を味わってこそ、美味しいお茶を味わえるのだと、常に彼は語っていた。

「今日は黄金桂にいたしましょう。
まだ、お教室では紹介していなかったと思います。
水色はそれは美しい黄金色で、金木犀の花の香りに似た芳醇な香味があります。
口当たりも柔らかで良いのですよ。
華僑の富裕層に好まれたことから、香港やシンガポールでも人気のあるお茶です」
紹介しながら、高価な宜興紫砂の茶壺にまずたっぷりと熱湯を注ぎ、その湯を茶海、茶杯にと移し替え、一通り温める。
茶海は淹れたお茶の濃さを均一にするための容れものだ。
次に茶葉を茶則に移し、丁寧に茶壺に入れる。
茶壺のヘリに沿って溢れ出すほどにたっぷりと湯を注ぐ。
茶壺の上に出た泡を茶杓で取り除き、蓋をして茶壺の上から熱湯をかけ、茶壺を温める。
溢れ出た湯は、竹茶盤の隙間から下に流れ出すのだ。
茶海に茶壺の中の茶を丁寧に優しく注ぎ切る。
濃さが均一となったお茶を茶杯に注ぐ。

朱のその一連の所作はまるで優雅な舞いのようだ。
由貴子の沈んでいた心が少しずつ穏やかになるのを感じる。

「さあ、どうぞ」
朱の爪先まで美しい手が、由貴子に茶杯を勧める。
「…いただきます…」
由貴子は会釈し、まずは香りを楽しむ。
「…良い薫りですわ。
…少しバニラに似た薫りがいたしますわね」

朱は自分も薫りを楽しんだのち、にっこりと微笑った。
「さすがは由貴子さんですね。乳香とも申します。
黄金桂は清時代に原茶樹が発見され、その美しい水色と花のような薫りから王族や貴族に珍重されたお茶なのです」
由貴子はお茶を口に含む。
その美味さに思わず貌が綻ぶ。
「…ああ…美味しい…。
まるで身体の中から浄化されるように芳醇で…それでいて優しいお味がしますわ」
朱が涼しげな瞳を細めた。
「…やっと笑ってくださった…」
「…朱先生…」

「お話してくださいませんか?
由貴子さんのお悩みを…」
朱の美しい指先が、優しく由貴子の白い頰に触れた。


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