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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
…由貴子の苦しい告白が終わる頃には、黄金桂はすっかり冷めていた。
「…新しいお茶を淹れましょう…。
今度は…そうですね。
由貴子さんに相応しいお茶を淹れてみましょう」
朱が微笑みながら美しい猫のようなしなやかな脚取りで新しいお茶を淹れにゆく。
古代紫の長袍がまるで優美な舞いを舞うかのようにひらりと揺れた。
「…由貴子さんは、これからどうされたいのですか?」
由貴子に背を向けたまま、朱は尋ねる。
「…わかりません…」
…情けないことだが、本当にどうしたら良いかわからなかったのだ。
宮緒と澄佳の過去の繋がりを聞き、それからずっと途方に暮れているのだ。
「私、どうしたらいいのか分からないのです。
…はっきり申しまして、私は澄佳さんに嫉妬しております。
…また、真紘さんが澄佳さんに惹かれるのではないかと疑心暗鬼になっております。
…それがとても苦しいのです。
この先ずっと自分の醜い心を見せつけられなくてはならないのかと思うと…苦しくてやり切れなくて…」
…こんな心のまま、あのひとと暮らし続けてゆかなくてはならないのか…。
自分が情けなくて暗澹たる想いに包まれる。
「では、ご主人とお別れになりますか?」
淹れたての茶杯を手に、朱は振り返るとさらりと尋ねた。
「いいえ!」
反射的に小さく叫ぶ。
「別れたくはありません!」
思わず唇に手を当てる。
朱が白い牡丹の花が咲き染めるように婉然と微笑んだ。
「…由貴子さんの成すべきことの答えは、もう出ているようですね」
「…朱先生…」
朱の象牙色のしなやかな手によって茶杯が満たされる。
「…東方美人です。
このお茶はいわゆるオーガニックタイプなのですが、茶葉は烏龍茶の茶葉、白毫の芯芽、赤茶の葉からなっています。
茶名も白毫烏龍、香梹烏龍、膨風茶…と様々な呼び名があります。
良質な東方美人は水蜜桃を思わせるように甘く、薫りは紅茶のシャンパンと言われるダージリンのように豊饒なのですよ。
…まさに由貴子さんのようなお茶です。
さあ、召し上がれ」
朱はそう言って、優雅な所作で茶杯を差し出した。
「…新しいお茶を淹れましょう…。
今度は…そうですね。
由貴子さんに相応しいお茶を淹れてみましょう」
朱が微笑みながら美しい猫のようなしなやかな脚取りで新しいお茶を淹れにゆく。
古代紫の長袍がまるで優美な舞いを舞うかのようにひらりと揺れた。
「…由貴子さんは、これからどうされたいのですか?」
由貴子に背を向けたまま、朱は尋ねる。
「…わかりません…」
…情けないことだが、本当にどうしたら良いかわからなかったのだ。
宮緒と澄佳の過去の繋がりを聞き、それからずっと途方に暮れているのだ。
「私、どうしたらいいのか分からないのです。
…はっきり申しまして、私は澄佳さんに嫉妬しております。
…また、真紘さんが澄佳さんに惹かれるのではないかと疑心暗鬼になっております。
…それがとても苦しいのです。
この先ずっと自分の醜い心を見せつけられなくてはならないのかと思うと…苦しくてやり切れなくて…」
…こんな心のまま、あのひとと暮らし続けてゆかなくてはならないのか…。
自分が情けなくて暗澹たる想いに包まれる。
「では、ご主人とお別れになりますか?」
淹れたての茶杯を手に、朱は振り返るとさらりと尋ねた。
「いいえ!」
反射的に小さく叫ぶ。
「別れたくはありません!」
思わず唇に手を当てる。
朱が白い牡丹の花が咲き染めるように婉然と微笑んだ。
「…由貴子さんの成すべきことの答えは、もう出ているようですね」
「…朱先生…」
朱の象牙色のしなやかな手によって茶杯が満たされる。
「…東方美人です。
このお茶はいわゆるオーガニックタイプなのですが、茶葉は烏龍茶の茶葉、白毫の芯芽、赤茶の葉からなっています。
茶名も白毫烏龍、香梹烏龍、膨風茶…と様々な呼び名があります。
良質な東方美人は水蜜桃を思わせるように甘く、薫りは紅茶のシャンパンと言われるダージリンのように豊饒なのですよ。
…まさに由貴子さんのようなお茶です。
さあ、召し上がれ」
朱はそう言って、優雅な所作で茶杯を差し出した。