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星逢いの灯台守
第4章 上海ローズ
「…いや…」
由貴子が子どものようにいやいやをした。
「…ちゃんと答えて。
…自分で慰めたの…?」
「…しな…い…」
羞恥に全身を桜色に染めながら、必死で首を振る。

…本当は、した…。
ひとり寝の寂しさに耐えかねて…
自らを慰めた…。
…こんなことは初めての経験だった。

夫を亡くし、十年間閨房を守ってきたが、一度も性欲に駆られたことはなかった。
亡くなった夫とは元々、性交の回数も少なく淡白な夫婦生活であった。
年の離れた夫婦だったので、夫は由貴子を気遣っていたのだろう。
数年して瑠璃子が生まれてからは、育児にかかりっきりになったし、夫は研究が多忙でなかなか自宅に帰宅もできなかった。
…その内、アメリカの大学の研究室に客員教授として呼ばれ渡米してしまったので、後半の生活の中で夫婦の営みは数えるほどしかなかった。
それが不満に思ったこともなかった。
…むしろ、セックスレスを意識することもないほど、性に関しては無関心だったのだ。

柊司は、今思うと性愛の対象ではなかった。
初恋の延長の…女学生が親しい美しい青年を慕うような清らかな恋だったのだ。

…けれど…。
宮緒と巡り会い性愛に目醒めさせられ、セックスの悦楽と陶酔の味を覚えさせられて、由貴子は変わってしまったのだ。

毎夜、組み敷かれ貪欲に…そして甘く激しく愛されていた相手が不在になり、由貴子はひとり寝の閨が寂しく、切なさに悶えるようになってしまった。

ベッドに横たわり夜毎思い浮かぶのは、男の心地よい引き締まった身体の重みと、愛撫の激しさと濃密さ…。
…そして、己れの柔らかく淫らな肉を暴かれ、犯される淫靡な快楽の記憶であった。

…異国の地の、やや水分を含んだ夜風に身体を撫でられながら、由貴子は気怠い夜をやり過ごす術を次第に探り当てていたのだ…。

「…してみせて…。由貴子…」
男の緩やかな抽送が止まった。
「…え…?」
優美な眉を不安げに上げて、尋ねる。

「…僕の前で、慰めてみせて…」
…そうしたら…たくさん、犯してあげるよ…。
おかしくなるほどにね…。

…男の艶めいた美声で鼓膜を犯され、由貴子は甘く身体を震わせた…。

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