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星逢いの灯台守
第2章 忘れ得ぬひと
「…僕は…あの町も、母さんも捨て去りたかった…。
なのに母さんは…!」
拳をぎゅっと握り締める。


…「うちは幸せやもん…」
そして…
…「…あんたは自由に生きていいんよ…。
自由に生きて、幸せになるんよ…」
そう言って微笑ってくれた。

「真紘…」
片岡が振り返る。
「…親父の会社を辞めたければ、辞めていいんだぞ」
「…え?」
涙で滲む視界に、片岡の真っ直ぐな視線が浮かび上がる。
「自由に生きろ。
お前がやりたいことをやれ」
…自由…。
ずっと憧れ…恋い焦がれていた言葉だ。
…でも、いざそれが手に届きそうになると、怖気付く自分がいる。

「…兄さん…」
「お前は何がしたい?」
…優しいと言ってもいいような声であった。

…何がしたい…。
何が…したいのだろう…。

父親の会社に入ったのは、父親に乞われたからだった。
「真紘。頼むから儂の会社に入って、力になってくれ」
東京のオフィスのブレーンが今ひとつ頼りないことを父親は心配していたのだ。
宮緒は父親が好きだったし、何より恩義がある。
年々気弱になる父親を見捨てることは出来なかったのだ。
「…したいこと…。
分かりません…」
視線を落とし、ぽつりと呟く。
「…情けないですね…。
自由に生きていい…と兄さんに言われて嬉しくて…でもやっぱり、自分の枷を自分で外せない…」
…自分は何を求めているのか…。

新しい煙草に火を点けた片岡が淡々と口を開いた。
「親父は今年一杯で現職を退く」
「…え?…」
「俺はトマムのホテルを退職し、正式に跡を継いで事業を引き継ぐ。
同時にいよいよリゾート産業を本格的に始動させる」
夏の闇に片岡の端正な横顔は紛れることなく、くっきりと陰翳を刻む。
「…そうですか…」
…いよいよ兄の時代が来るのだと、感慨深く思う。

「…真紘。お前さえ良かったら、俺の秘書として側で支えてくれないか?」
驚きに思わず眼を見張る。
「…僕が兄さんの?」
「お前は賢いし気働きも出来る。冷静な判断力もある。
…何より、お前は俺の弟だ」
…俺の弟…。
兄の言葉に息を呑む。
「…兄さん…」
片岡の手が、宮緒の手を取った。
驚きのあまりびくりと震える手が、強く握り締められる。
…初めて触れる兄の手は、意外なほどに暖かかった…。








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