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星逢いの灯台守
第2章 忘れ得ぬひと
…冬の夕暮れは早い。
茜色に染まった水平線が次第に、夜の帳の色へと変わってゆく。
二人は砂浜に腰を下ろし、黙って暮れゆく海を見つめていた。
…かりそめの恋が、終わりかけていた。

宮緒は自分のコートを澄佳に掛け、肩を抱いた。
「…もう、日が暮れるわ…」
ぽつりと澄佳が呟いた。
「…帰らなきゃ…」
黙って澄佳を強く抱き寄せる。
「帰らせたくない」
「…帰りたくないわ…」
…でも…。
「帰らなくちゃ…」
片岡は恐らくマンションで待っているだろう。
澄佳の気持ちを落ち着かせるためにくれた1日の猶予だ。
帰らなければ、大ごとになる。
片岡はシビアな男だ。

「…私といたことが分かったら…宮緒さんがどんな咎を受けるか…」
宮緒を気遣う澄佳の優しさに、堪らずにその華奢な身体を抱き締める。
「構わないよ。何をされても構わない…」
腕を柔らかく解き、見つめ合う。
暮れなずむ空の色を映す濃い葡萄酒色の瞳を見つめ、囁く。
「…ねえ、このまま僕と二人で行こう…」
「…宮緒さん…?」
「ここから久里浜までは直ぐだ。
最終のフェリーに間に合う。
それに乗ってあの小さな海の町に帰るんだ。
…二人であの町に帰って、暮らそう」
…あの町で…。
もしかしたら、恋が芽生えていたかもしれないあの町で…。
「…二人で一から始めよう…」
…宮緒は立ち上がり、手を差し伸べた。
「一緒に行こう…」
「…宮緒さん…」
澄佳の白い手がおずおずと差し出され…あと数センチのところで力なく落ちた。

「…やっぱりできないわ…」
「…澄佳さん…」
「貴方は片岡さんの弟でしょう。
…私と逃げたら大変なことになるわ。
それが分かっていて…そんなこと、できない…。
貴方の人生を台無しになんて、できない…」
俯いた澄佳の白い頰に涙が伝い…砂浜に落ちる。
「…澄佳さん…!」
「…それに…」
見上げた澄佳の瞳の中に、哀しげな色が射す。
「…私はまだ片岡さんを、愛しているの…。
あの狡くて傲慢で…でもどこか孤独で…そして優しいあのひとを…まだ、愛しているのよ…」
遣る瀬無い想いがひたひたと胸に満ちる。
「…澄佳さん…」
澄佳がゆっくりと立ち上がり、宮緒を見上げる。
「…綺麗な恋をありがとう…。
一生、忘れないわ…」
痺れるように甘美な口づけを残して、澄佳は微笑った。

…そうして、うたかたの恋の一日は終わりを告げたのだ…。






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