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星逢いの灯台守
第2章 忘れ得ぬひと
…クリスマス休暇が明けた。
宮緒は出社した片岡に会議の資料を届けに社長室を訪れた。
「おはようございます。社長。
こちらが会議の議案の資料です。
間もなく始まります。第1会議室にお越しください」
「分かった。直ぐに行く」
机上のパソコンで株価のチェックをしながら、片岡は短く答えた。

…ハイブランドの黒に近いグレーのスーツ、綺麗なペールブルーのシャツ、アメジスト色のレジメンタルタイ…。
髪はきちんと撫でつけられ、それが特徴の端正だが冷ややかな眼差し、洗練され余裕に満ちた物腰は普段通りだ。

…昨夜、特に変わったことはなかったのだろう。
密かに安堵しながら一礼し、宮緒は社長室のドアレバーに手を伸ばした。
その背中に、淡々とした声がかかる。

「…昨夜はどこにいた?」
ドアに掛けた手が一瞬固まる。
ゆっくりと片岡を振り返る。
「…自宅におりました」
片岡の強い光を放つ切れ長の瞳が、瞬きもせずに宮緒を見つめていた。
「クリスマスなのにか?」
「…生憎、一緒に過ごすひともおりませんので…。
自宅でベルリンフィルの第九を聴きながら、ロアルト・ダールの小説を読んでおりました。
食事はケータリングのマルゲリータピザです。
デザートはハロッズのクリスマスプディング…。
甘すぎて頭痛がしました」

片岡の酷薄そうな形の良い唇がにやりと笑った。
「聖ヨハネらしい過ごし方だな。
…来年は一緒に過ごす相手くらい探しておけ。
あっと言う間に三十だぞ」
「…肝に命じます」
行けと言うように手を挙げた片岡に頭を下げ、今度こそ退出する宮緒の肩越しに奇妙な甘さを含んだ声が追いかけた。

「…お前は裏切らないな…?真紘」
振り返る宮緒の瞳に、優しげな微笑みの片岡が映った。

「…お前を信じているよ。可愛い真紘…」
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