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星逢いの灯台守
第1章 名も知らぬ薔薇
横浜での寄宿生活は新鮮だった。

山手の小高い丘の上にある明治初頭に建てられたと言うチューダー様式の赤煉瓦校舎からは、巨大な外国船籍も停泊する横浜の大きな港が見下ろせた。

…内房の海とは違う…黒色に近い無機質な海だ。
故郷の漁港のように小さな漁船がせめぎ合って停まっていることもない。
潮の香りもあまりしない。
荒っぽい漁師たちの代わりにいるのは、物見遊山の観光客達だけだ。
せいせいした。

生徒たちは案の定、富裕な家庭の子弟ばかりだった。
英国教会の流れを汲む宣教師が開校したと言うこの学校は、まるで外国のようだった。
…もっとも宮緒は海外に行ったことはないので、想像上の…だけれども。

同室になった生徒は、石油会社の社長の息子だった。
荷を解きながら、握手を交わす。

「全寮制なんて、今時時代錯誤もすぎると思わないか?
…ゲームも禁止。テレビはロビーでしか見られない。
携帯も舎監に預けなくちゃならないなんてさ。
…あ〜、家に帰りたい」
同室の生徒はぼやいた。

「…そう…かな」
宮緒は口籠った。
「君、家はどこ?」
何気なく尋ねられ、
「…千葉だけど、すごく田舎だ。小さな海の町。
言っても君は知らないような寂れた港町。
…退屈には慣れているから、僕は大丈夫そうだ」
淡々と答えた。

「…へえ…」
生徒は不思議そうな貌をした。

…その時、まだ舎監に預ける前の携帯電話が鳴った。
携帯電話は父親が入学祝いにと契約し、与えてくれたものだ。
貰ったのは昨日。
だから登録している者もいない。
…当然、掛かってくる者も皆無なはずだった。

訝しく思いながら着信ボタンを押し、耳に押し当てる。
「…はい…」

「宮緒真紘?」
…呼び捨てだ。
低音の大人の男性の声が響いた。
「…はい。
…あの…」
尋ねる前に、相手がさらりと名乗った。

「俺は片岡直人。
…君の腹違いの兄だ」
「…!」

思わず息を飲む宮緒の気配に、男は可笑しそうに笑った。


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