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星逢いの灯台守
第2章 忘れ得ぬひと
…そうして、五年の月日が流れた。

あのクリスマスの日から、澄佳とは二人きりで会ったことも話したこともない。
たまさか、片岡の迎えや送りで澄佳に会う時も努めて目線を合わせないように気を配ってきた。
澄佳もそうだろう。
…お互い視線も合わせない…言葉も交わさない関係…。
それが五年続いた。
二人はお互いの淡い恋心を胸の奥深くにしまい込んだのだ。

この五年、宮緒は何人かの女性たちと情交を交わした。
けれどそれはすべて一夜限りの束の間の情交であった。

片岡から見合いを勧められたこともある。
「取り引き先の地銀の平岡常務のお嬢さんを覚えているか?
先日のパーティでお前を見かけて一目惚れしたらしい。
どうしても席を設けて欲しいと頼まれてな…」
けれど宮緒はそれを丁重に断った。
「申し訳ありませんが、自分は一生結婚する気はありません」…と…。
澄佳以上に心惹かれるひとに出逢えるとは思えなかったのだ。
片岡は何も言わなかった。

…やがて、片岡の様子に変化が見え始めた。

時折、澄佳のマンションではなく別のマンションに出入りするようになったのだ。
片岡は銀座の高級クラブに勤める若いホステスを囲い始めていた。

澄佳と出会い、片岡の派手な女性関係は鳴りを潜めていた。
その彼が急に他の女性と浮気をしだしたことに宮緒は驚いた。
ホステスは二十歳になったばかりの可愛らしい顔立ちをしてはいたが、浅はかさと気の強さばかりが目立つ女だった。
澄佳に飽きた訳でも蔑ろにはしている訳でもなさそうだったが、彼女のマンションに泊まる回数が明らかに減り始めた。

しかし宮緒には何もできなかった。
澄佳に声を掛けることはおろか、会いにゆくこともできないのだ。
己れの無力さに忸怩たる思いであった。
…澄佳さんは…どんな気持ちでいるのだろう…。
どんなに哀しんでいるだろうか…。
逢いたい…。
逢って澄佳を慰めたい…。

…いや、違う。
逢って、再び彼女をこの手に抱きしめたいのだ。
宮緒は己れのなかに今も息づく埋み火のような恋の熱情に気づくのだった。

…そんな時、片岡は宮緒に冷ややかに告げたのだ。

「…澄佳とは距離を置く。
しばらく彼女とは会わない。
お前もあのマンションには足を運ぶな」


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