この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
星逢いの灯台守
第2章 忘れ得ぬひと
「兄さん?
…よくもぬけぬけとそんなことを言えたものだ。
裏切り者の癖に」
冷ややかな眼差しで見遣り、吐き捨てるように告げられる。

…愛人の息子…裏切り者…。
そんな言葉をまさか兄の口から聞くことになろうとは…。

…『お前は自由に生きろ。
大人たちの事情に振り回されるな』
『俺は弟が出来て嬉しいよ』
『俺の片腕になって欲しい。
お前の力が必要だ』
…淡々とした中に確かに肉親の情を、優しさを感じた。
それは宮緒がずっと恋い焦がれてやまないものであった。

聖ヨハネ入学祝いのタグホイヤーの時計…。
あの日、兄に貰った時計は常に手入れとメンテナンスを続け、今も大切に愛用している。

対面した時から今まで、兄は宮緒の憧れであり特別な誰にも代え難い大切なひとであった。
澄佳が兄のものでなければ、力づくでも奪い去っていた。
そうしなかったのは、澄佳と兄に幸せになって欲しかったからだ。
憧れの…誰よりも宮緒を魅了してやまない大好きな兄に敬意を表し、尊重したからだ。

…その想いは、兄には届いてはいなかったのだ。

…「愛人の息子風情が…!」
それが兄の本音だったのだ…。

遣る瀬無い虚無感が満ち溢れ、全身の力が抜けて行く。
「…兄さんは…僕のことをそんな風に見ていらしたのですか…」
片岡が苦々しく眉を寄せる。
「お前が裏切ったのだ。
俺はお前を可愛がっていた。
ユダはお前だ。
…聖ヨハネで習っただろう?」

黙り込んだ宮緒に、無機質な冷たい声が届く。
「お前を上海のホテルの総支配人に命じる。
…今月末までに赴任するように」
新しく片岡が始めた海外ホテル事業だ。
寝耳に水の人事だった。

「…社長…!」
「どうした?なぜ喜ばない。栄転だぞ?」
片岡は鼻先で嗤った。
「俺の女に懸想した男を野放しにするほど、俺は寛容ではないんでね。
…早くお前の業務を部下に引き継ぎしろ」

社長室をさっさと後にしようとする片岡を、思わず呼び止める。
「兄さん…!」

一度だけ立ち止まる。
しかし決して振り向かない。
「…澄佳の生活の心配はいらない。
彼女の人生の責任は、俺が持つ。
お前はもう関わるな」

感情の読めない声で言い放つと、宮緒の目の前から消えた。




/198ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ