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星逢いの灯台守
第2章 忘れ得ぬひと
宮緒は意を決したように口を開いた。
「…社長…。
それでも澄佳さんは、貴方を愛していたのですよ。
貴方の冷たさも傲慢さも…何もかも分かっていて、貴方を愛し続けたのですよ。
私でなく貴方を選び続けた…。
今も尚…!
澄佳さんは、そういうひとなのです。
一度愛したひとをずっと一途に愛し続ける…。
そんな澄佳さんを、貴方は置いていかれるのですか?」
片岡は宮緒をじっと見つめ返した。

「…澄佳はお前に先に出逢えたのなら、幸せだったな…」
「…社長…」
「俺も今、選べるならば澄佳を選びたい。
だが出来ない。
俺の打算尽くしで結婚した麻季子だ。
お互い愛などなかったと思っていた。
麻季子は俺のように財力や容姿などが満たされた、友人から羨ましがられる理想の夫のモデルが気に入ったのだと…。
だが、今日警察に行った俺に麻季子は泣きながら抱きついてきた。
…愛していると…寂しかったと繰り返す麻季子が不憫でならなかった。
同時に俺は何をしてきたのだろうと、初めて自責の念に駆られたのだ。
愛していない女を妻にして、ずっと不幸にしてしまった。
本当に愛した女も、俺のせいで災いに巻き込み苦しめてしまった。
…今の俺がしなくてはならないことは償いだ。
麻季子を立ち直らせる為に、全力を尽くす。
…だから俺に澄佳に愛を告げる権利はないんだ」
片岡の瞳には静かな諦観と達観の色に満ちていた。
「…社長…」
「真紘…。お前にも酷いことばかりを言った。
すまなかった。
許してくれとは言わない。
ただ、澄佳を頼む。
…俺が唯一愛した女を…幸せにしてやってくれ」
頭を深く下げた片岡に、思わず声をかけていた。
「兄さん…!」
…かつて宮緒に限りない憧憬の感情を抱かせてくれた兄の姿がそこには存在していた。
そして、そのことに宮緒はただ静かに涙を流した。
涙はひたひたと宮緒の心を満たしてゆき、やがてそれは深く刺さった片岡のあの言葉の棘すらもゆっくりと押し流してゆくのだった。


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