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星逢いの灯台守
第3章 空蝉のひと
宮緒は生垣に身を隠した。
しかし、二人の仲睦まじい語らいは手に取るように聞こえる。
「…ここから見る夕陽は、世界で一番美しい…」
「本当に?
柊司さんは色んなところの夕陽を見て来たんでしょう?
…こんな地味な海辺の夕陽なんて…」
男は抱き寄せた澄佳を振り向かせ、その小さな貌を優しく包み込んだ。
「…そうだね。
ベネチアのゴンドラから、ニースの白い浜辺から、ノルウェーのフィヨルドからの美しい冴え冴えとした夕陽や…。
海外でも色々な夕陽を見て来たけれど、ここの夕陽が一番美しい…。
澄佳と見る夕陽だからだよ」
「…柊司さん…」
澄佳の潤んだ瞳が茜色に染まる。
「…誰よりも愛する君と見る夕陽が、世界で一番美しい…」
「…柊…」
…言葉が途絶えたのは、男が甘く優しい…そして濃密な口づけを与えたからだろう。
蜜のような沈黙ののち、澄佳の幸せに満たされた甘やかな声が聞こえた。
「…愛しているわ…柊司さん…」
「…僕もだよ。君に出会えて、君と見る風景は輝いて見える。
君のおかげだ…。
…愛している。澄佳。
早く君とずっと片時も離れずに暮らせるようになりたいよ」
「焦らないで。私は今のままで幸せよ。
貴方には大学の教授と研究という立派なお仕事があるんですもの。
…それに、その気になれば東京はすぐだわ」
「でも、君には妹が世話になりっぱなしだ…。
中学生の世話と食堂の切り盛りと…。大変だろう?」
「私は瑠璃ちゃんが可愛いの。預かれて嬉しいわ。
だから今、私はすごく幸せなの。気にしないで」
「…澄佳…」
二人の熱き抱擁は長く続いた。
「…さあ、もう行って。
そろそろ由貴子さんをお見送りに行かなくちゃ…」
「母様は瑠璃子の演奏会を聴いて、そのまま帰るそうだよ。
…だからもう少し君といられる…」
「…柊司さ…」
甘く長く濃密な口づけの気配は、静かな波の音が搔き消した。
…宮緒はそっと生垣から離れ、澄佳の店を後にした。
しかし、二人の仲睦まじい語らいは手に取るように聞こえる。
「…ここから見る夕陽は、世界で一番美しい…」
「本当に?
柊司さんは色んなところの夕陽を見て来たんでしょう?
…こんな地味な海辺の夕陽なんて…」
男は抱き寄せた澄佳を振り向かせ、その小さな貌を優しく包み込んだ。
「…そうだね。
ベネチアのゴンドラから、ニースの白い浜辺から、ノルウェーのフィヨルドからの美しい冴え冴えとした夕陽や…。
海外でも色々な夕陽を見て来たけれど、ここの夕陽が一番美しい…。
澄佳と見る夕陽だからだよ」
「…柊司さん…」
澄佳の潤んだ瞳が茜色に染まる。
「…誰よりも愛する君と見る夕陽が、世界で一番美しい…」
「…柊…」
…言葉が途絶えたのは、男が甘く優しい…そして濃密な口づけを与えたからだろう。
蜜のような沈黙ののち、澄佳の幸せに満たされた甘やかな声が聞こえた。
「…愛しているわ…柊司さん…」
「…僕もだよ。君に出会えて、君と見る風景は輝いて見える。
君のおかげだ…。
…愛している。澄佳。
早く君とずっと片時も離れずに暮らせるようになりたいよ」
「焦らないで。私は今のままで幸せよ。
貴方には大学の教授と研究という立派なお仕事があるんですもの。
…それに、その気になれば東京はすぐだわ」
「でも、君には妹が世話になりっぱなしだ…。
中学生の世話と食堂の切り盛りと…。大変だろう?」
「私は瑠璃ちゃんが可愛いの。預かれて嬉しいわ。
だから今、私はすごく幸せなの。気にしないで」
「…澄佳…」
二人の熱き抱擁は長く続いた。
「…さあ、もう行って。
そろそろ由貴子さんをお見送りに行かなくちゃ…」
「母様は瑠璃子の演奏会を聴いて、そのまま帰るそうだよ。
…だからもう少し君といられる…」
「…柊司さ…」
甘く長く濃密な口づけの気配は、静かな波の音が搔き消した。
…宮緒はそっと生垣から離れ、澄佳の店を後にした。