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星逢いの灯台守
第3章 空蝉のひと
…宮緒は駅の待合室の長椅子に座り、煙草に火を点けた。
…良かった…。澄佳さんはとても幸せそうだった…。
宮緒はそっと独りごちて、小さく微笑んだ。

宮緒の知っている澄佳は、美しいけれどもいつもどこか寂しげな雰囲気を漂わせたひとだった。
しかし、先ほど見た彼女は違った。
その美しさには明るい光があり、温もりがあった。
…おそらくは傍にいた夫のおかげなのだろう。

…大学教授…と言ったっけ…。
ハンサムで知的で優しそうで…けれど頼もしそうなひとだったな…。
澄佳さんは良いひとに巡り会えたのだな…。
寂しくないと言えば嘘になる。
けれど、安堵の気持ちの方が大きかった。

…良かったんだ…。これで…。

宮緒はふっと息を吐いた。
列車の時刻表を見ようと立ち上がる。

…窓からは、駅の小さなロータリーに一台のワゴン車が止まるのが見えた。

ワゴン車の中からは、思わず眼を惹くような露草色の美しい着物姿の一人の女性が降り立った。
「ママ、ほんとにここでいいの?涼ちゃんが木更津まで送ってくれるって言ってるのに」
助手席の窓から愛らしい貌をした少女が話しかける。
「そうっすよ。俺が木更津まで送りますよ。遠慮しないでください」
運転席には赤銅色に日焼けした逞しい風貌の男が乗っていた。
着物姿の女性は、静かに首を振った。
「大丈夫です。ここから電車で帰ります。
…涼太さんは朝早いのですから、もうお帰りになってください。
瑠璃子をよろしくお願いいたします。
…瑠璃ちゃん、我儘を言って涼太さんを困らせてはいけませんよ」
「分かってるってば。
じゃあ、ママ。私のことは心配しないでね。
また来てね。
気をつけて帰ってね」
「ええ。澄佳さんにくれぐれもよろしくね」

ワゴン車はやがて駅を後にした。
女性はしばらくその場に佇んでいたが、車が見えなくなるとこちらに振り返り、静かに待合室へと歩みだした。

宮緒はその近づきつつある女性の貌を何気なく見て、小さく息を呑んだ。

…そのひとは、驚くほどに美しく嫋やかで…そしてしっとりと艶めいた…夜に咲く蓮の花のような稀有な美貌の持ち主だったのだ…。




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