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星逢いの灯台守
第3章 空蝉のひと
…女は静かに待合室に入ってきた。
先客の宮緒がいるのを見て、さりげなく嫋やかに頭を下げた。
宮緒も思わず会釈を返した。
…二人は少し離れた場所の長椅子に座った。
宮緒は、見るともなしに女を見た。
…露草色の着物には秋の花、女郎花が繊細に描かれていた。
美しく艶やかな黒髪をきちんと結い上げ、上等な翡翠の簪を差している。
白絹のようにきめ細やかな綺麗な肌、京人形のように整った典雅な目鼻立ち、紅梅色の唇…。
…思わず無遠慮に見つめてしまった自分を恥じて、宮緒は眼を逸らした。
…こじんまりした古い待合室に二人きり…。
静かな沈黙が支配する。
…しばらくして、夏の終わりのひぐらしが夕暮れの空気に融けこむように鳴き始めた。
「…これ…何と言う蝉ですか?」
空耳かと思うほどにささやかな声であった。
宮緒は女を振り返った。
「…かなかなかな…て、可愛い声…」
柔らかな…淡雪のようにすっと消えてしまいそうな声であった。
「…ひぐらしです。
お聴きになったこと、ありませんか?」
「…ひぐらし…」
…ああ…と、女は嬉しそうにその黒く美しい眼を細め、宮緒に微笑みかけた。
先客の宮緒がいるのを見て、さりげなく嫋やかに頭を下げた。
宮緒も思わず会釈を返した。
…二人は少し離れた場所の長椅子に座った。
宮緒は、見るともなしに女を見た。
…露草色の着物には秋の花、女郎花が繊細に描かれていた。
美しく艶やかな黒髪をきちんと結い上げ、上等な翡翠の簪を差している。
白絹のようにきめ細やかな綺麗な肌、京人形のように整った典雅な目鼻立ち、紅梅色の唇…。
…思わず無遠慮に見つめてしまった自分を恥じて、宮緒は眼を逸らした。
…こじんまりした古い待合室に二人きり…。
静かな沈黙が支配する。
…しばらくして、夏の終わりのひぐらしが夕暮れの空気に融けこむように鳴き始めた。
「…これ…何と言う蝉ですか?」
空耳かと思うほどにささやかな声であった。
宮緒は女を振り返った。
「…かなかなかな…て、可愛い声…」
柔らかな…淡雪のようにすっと消えてしまいそうな声であった。
「…ひぐらしです。
お聴きになったこと、ありませんか?」
「…ひぐらし…」
…ああ…と、女は嬉しそうにその黒く美しい眼を細め、宮緒に微笑みかけた。