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星逢いの灯台守
第3章 空蝉のひと
「…その主人と先の奥様との間に、私と一回り歳が離れた血の繋がらない息子がおりました。
…私は、その息子に恋をしておりました」
宮緒は息を呑んだ。
…この稀有なほどに美しく気高い品格を備えた…如何にも良家の奥様然とした女が告白した内容は余りに衝撃的だったからだ。
陽が沈みかけ、辺りは薄紫色の夕闇に染められつつあった。
その中で、露草色の着物を着た…さながら京人形のような典雅な美貌の女が浮かび上がる様は、ぞくりとするほどに幽玄で、宮緒はただ彼女に惹き付けられていた。

「…息子が十二歳の時からずっと…。
主人とのお見合いで初めて逢った瞬間から、主人の息子に恋をしました。
…だから私は主人と結婚したのです。
息子の一番身近にいたかったから…。
…まだ少年の息子に恋をして…まるで母性愛で結婚を決意したかのように主人を欺いて…。
酷い女でしょう…?」
女の切れ長の瞳が煌めきながら宮緒を見上げた。

「…いいえ。少しも…。
人は皆が正しい恋をする訳ではありません。
恋をしてはいけないひとに恋をするのが人間の哀しい性です。
…そして時には密かに他人を欺き、罪を犯すものです」
…自分もそうだ。
兄の恋人に惹かれ、恋をした…。
決して恋をしてはならぬひとに恋をしてしまったのだ。

女は少し驚いたように美しい三日月の形の眉を上げ、清かに微笑んだ。


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