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第3章 空蝉のひと

「…結局、そのひととの恋は実りませんでした。
当然ですけれど…。
息子は私の元を離れ、美しく優しく素晴らしい女性と結ばれました。
…それで…今、訳あって娘がここに住む息子のお嫁様のところでお世話になっているのです。
学校もこちらで通っていて…」
「…え…」

先ほどロータリーでワゴン車に乗っていた少女と交わされていた会話を思い出した。
…『瑠璃ちゃん、澄佳さんによろしくね…』

…そうか…。
このひとの息子が澄佳さんの夫なのか…。
澄佳の店の前で二人が交わしていた会話も蘇る。
『由貴子さんは瑠璃子ちゃんの演奏会を聴きにいらしているわ…』
…このひとが、そのひとか…。

奇跡のような偶然に、息を飲む。
「…あの…どうかされましたか？」
怪訝そうな貌をした女に慌てて首を振る。
「いいえ、何でもありません。
…それで…？」
驚きを禁じ得ない偶然の出会いに、宮緒は迅る胸を押さえた。