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星逢いの灯台守
第3章 空蝉のひと
「…娘はすっかりこちらに馴染んで…本当に元気になりました。
生き生きと楽しそうで…。
…こちらに移して良かったと…心から思っております…」
…けれど…。
女の白く美しい貌が硝子窓の外を眺める。
不意に強くなった風が、がたがたと窓枠を揺らし…やがて大粒の雨粒が硝子を叩きつけるように打ち鳴らし始めた。

「…もう、私を必要としてくれるひとは誰もいないのだと…時折、海の底に沈み込むような孤独を感じるのです…」

夕闇の空は俄かに掻き曇り、突然稲光りが光った。
真昼のように明るい光は、女の姿を余すところなく輝かせた。
…女からは、ぞっとするほどに凄絶な妖気のようなものが放たれ、宮緒は瞬きをすることも忘れて彼女に見入った。
黒々とした宝石のように美しい瞳に稲妻の光が映し出される。

辺りを劈くような激しい雷鳴が轟いた。
けれど女は身動ぎもせずに、遠くを見つめたまま形の良い紅い口唇を開いた。
「…私はこのまま、誰にも求められることもなく老いて死んでゆくのだと…そう考えると、堪らなく寂しくなるのです…」

硝子窓を叩く雨風が、嵐のように激しくなった。
その音に我に返ったかのように、女は長く濃い睫毛を震わせた。
そうして己れに恥じ入るように微笑んだ。
「…こんなこと…見知らぬお方にお聞かせするようなことではありませんわね…。
お許しください…」
「いいえ。
…行きずりだからこそ、お話いただけたのだと思います」

女の濡れ濡れとした漆黒の色の瞳が、つと宮緒を見上げた。
宮緒はその瞳の魔法に魅入られたかのように、ゆらりと立ち上がり女に近づいた。
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