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星逢いの灯台守
第3章 空蝉のひと
「…ここです。
僕の勤めている会社が経営している旅館なのです。
…二部屋くらい空いてるでしょう」
タクシーから降りた宮緒は、女を小さな旅館の玄関に誘った。
雨は一層激しくなっていた。
宮緒はタクシーの運転手に借りた傘を女に差してやり、庇うように歩いた。
横殴りの雨が女の上質な着物を濡らさぬようにその華奢な肩を引き寄せる。
…腕の中の女の身体はか細い見かけより更にほっそりとしていて、宮緒の庇護欲を微かに刺激した。
しっとりとした夜気の中、女の薫きしめた香なのか…白檀の香りが漂った。


…電車が不通になり、車で東京方面に向かうことも困難と判明した時、宮緒は女に尋ねた。
「どうなさいますか?
お嬢さんがお世話になっているお家に戻られますか?」
女の息子の嫁…つまりは澄佳の家だし、娘がいるのならそこに一晩泊めてもらった方が得策だろうと思ったのだ。
けれど、意外なことに女はきっぱりと首を振った。
「息子のお嫁様に、余りご迷惑は掛けたくないのです。
彼女はお店を経営しているので、朝は早いですし…」

「…そうですか…」
宮緒は一つの大胆な提案をした。
「…ではこの近くに僕が知っている旅館があります。
僕はそこに一晩泊まろうと思っているのですが…貴女もご一緒に泊まられますか?」
…女は恐らく断るだろうと宮緒は予想していた。
初めて会った見知らぬ男と不測の事態とは言え、同じ旅館に泊まることを良しとするとは思えなかったからだ。

…ところが女の密やかな返事は、宮緒の予想を裏切るものであった。

「…もし、ご迷惑でなければよろしくお願いいたします」
…女の典雅な雛人形のように端麗な貌からは、その本心を推し量ることはできなかった…。

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