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星逢いの灯台守
第3章 空蝉のひと
浴室のシャワーだけを使い、慌ただしく身体を洗い流す。
手早く身支度を整えて、部屋の内線電話を掛ける。

間も無くフロントに繋がれ、昨夜の女将らしき人物が丁寧に挨拶をしてきた。
それを遮るようにして
「…あの、私の連れのひとは…」
言葉少なに尋ねると、女将は意外そうに答えた。
「…はあ。お連れ様は早朝に発たれました。
朝、ようやく国道の通行止めが解除されましたのでね。
そうお伝えするとタクシーを呼ばれて行かれました。
…あのぅ…。何か不都合でもございましたか?」

「…いえ。ありがとうございます。
私ももうすぐ出ます」
それ以上尋ねると女将の要らぬ好奇心を刺激しそうで、早々に電話を切る。

思わずため息が漏れる。
宮緒の脳裏に、昨夜の余りにも妖艶で美しい…けれどとても頼りなげな無垢な少女のような女の面影が鮮やかに蘇った。

…行ってしまったのか…。

こんなことなら、もっと優しく抱いてやれば良かった…。
もっと優しい言葉を掛けてやれば良かった…。

嬲るように…わざと虐めるような愛し方しかしてやれなかった己れを激しく悔やんだ。

…いや、本当はもっともっと大切に抱いてやりたかったのだ。
最初から…愛しむよう慈しむように愛したかったのだ。
…けれど、女の切ないまでの肉の欲望は、牡としての宮緒でしかないことが明らかで…それに対して腹立たしい気持ちが先立ってしまったのだ。

…本当は…。

宮緒は翡翠の簪を握りしめながら、再びため息を吐く。

…もうすっかりあのひとの虜なのに…。
あの…美しくも夢のように儚い、空蝉の化身のようなあのひとの…。

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