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星逢いの灯台守
第3章 空蝉のひと
…由貴子が住む本郷の自宅は、大邸宅と言っても良いような和洋折衷の大正モダンの造りが特徴の…いかにも歴史が感じられる建物であった。
恐らくは20世紀初頭には建てられた文化財級の建築物なのだろう。
…そう言えば、清瀧家は江戸幕府の御典医の家柄…と書いてあったっけ…。
立派な青銅の門構えにややたじろぎながら、宮緒は門柱のベルを鳴らす。
直ぐに中から初老の家政婦が出てきた。
「片岡リゾートの宮緒と申します。
お約束ではないのですが、京都本願寺のお茶席の件で奥様にお目通りいただきたいのですが…」
でっち上げた理由で由貴子に会いたい旨を申し出ると、家政婦は少しも疑わずに宮緒を玄関に案内しつつ取り次いでくれた。
…茶道について付け焼き刃でも勉強した甲斐があったな…。
宮緒は胸を撫で下ろした。
上海の名前を出さなかったのは、警戒されるのを恐れたからだ。
由貴子は宮緒の名前も片岡の名前も知らない。
泊まった旅館では女将にしか名乗らなかったし、由貴子は身を潜めるようにしていたので聞こえてはいない筈だった。
取次後、しばらくして玄関に現れた由貴子は、宮緒の貌を見るなり一瞬にして青ざめ、奥に逃げ込もうとした。
宮緒は素早くその白く細い手首を掴んだ。
「逃げないで下さい。お願いです…!」
貌を背けたまま、由貴子が掠れた声で尋ねる。
「…何をなさりにいらしたのですか?
…お金が目的ですか?」
震える声で宮緒を見上げるその小さく美しい貌は恐怖で引き攣っていた。
「お金…?」
宮緒は眉を顰める。
「私を…脅しにいらしたのでしょう?」
思わず腹立たしげに低く叫んだ。
「馬鹿な…!なぜ私が貴女を脅すのですか…!」
「大きな声を出さないでください。
家政婦が来ます」
冷たく拒む手を強引に引き寄せる。
その猜疑心に潤む瞳に、必死で語りかける。
「どなたがいらしても構いません。
…私は貴女が好きだと…ただそれだけを言いに来たのですから…!」
恐らくは20世紀初頭には建てられた文化財級の建築物なのだろう。
…そう言えば、清瀧家は江戸幕府の御典医の家柄…と書いてあったっけ…。
立派な青銅の門構えにややたじろぎながら、宮緒は門柱のベルを鳴らす。
直ぐに中から初老の家政婦が出てきた。
「片岡リゾートの宮緒と申します。
お約束ではないのですが、京都本願寺のお茶席の件で奥様にお目通りいただきたいのですが…」
でっち上げた理由で由貴子に会いたい旨を申し出ると、家政婦は少しも疑わずに宮緒を玄関に案内しつつ取り次いでくれた。
…茶道について付け焼き刃でも勉強した甲斐があったな…。
宮緒は胸を撫で下ろした。
上海の名前を出さなかったのは、警戒されるのを恐れたからだ。
由貴子は宮緒の名前も片岡の名前も知らない。
泊まった旅館では女将にしか名乗らなかったし、由貴子は身を潜めるようにしていたので聞こえてはいない筈だった。
取次後、しばらくして玄関に現れた由貴子は、宮緒の貌を見るなり一瞬にして青ざめ、奥に逃げ込もうとした。
宮緒は素早くその白く細い手首を掴んだ。
「逃げないで下さい。お願いです…!」
貌を背けたまま、由貴子が掠れた声で尋ねる。
「…何をなさりにいらしたのですか?
…お金が目的ですか?」
震える声で宮緒を見上げるその小さく美しい貌は恐怖で引き攣っていた。
「お金…?」
宮緒は眉を顰める。
「私を…脅しにいらしたのでしょう?」
思わず腹立たしげに低く叫んだ。
「馬鹿な…!なぜ私が貴女を脅すのですか…!」
「大きな声を出さないでください。
家政婦が来ます」
冷たく拒む手を強引に引き寄せる。
その猜疑心に潤む瞳に、必死で語りかける。
「どなたがいらしても構いません。
…私は貴女が好きだと…ただそれだけを言いに来たのですから…!」