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星逢いの灯台守
第1章 名も知らぬ薔薇
運ばれてきた食事を食べながら、宮緒は片岡の質問にたどたどしく答え、片岡もまた自分のことを淡々と話してくれた。
片岡は二十歳だった。
とても大人びて見えたから驚いた。
慶應大学の二年生だが、まもなくニューヨーク大に留学するそうだ。
…せっかく知り合えたのに、遠くに行ってしまうのかと宮緒はがっかりした。
「休みには帰ってくるさ。
しっかり勉強して優秀な大人になってくれ。
…俺は親父の家業に関わる気はないから、いずれは君が親父を支えてやってくれ」
「え?」
驚きのあまり、フォークが止まる。
「親父は今の不動産業だけで満足しているけれど、俺はリゾート産業にも進出するつもりだ。
だからアメリカ留学を決めた。
…あの小さな海の町…」
その言葉に、宮緒の睫毛が瞬いた。
「…あんな特徴のない小さな漁師町は過疎が進んで寂れる一方だ。
親父にとっては故郷だから思い入れは人一倍らしい。
リゾート化には二の足を踏んでいる。
…年寄りは感傷的すぎていけない。
だから日本中過疎村ばかりになる。
…あんな町、リゾートで生き残らずに何で生き残るって言うんだ」
あの町を冷たく切り捨てるような言葉…。
けれど、宮緒は少しも不快には思わなかった。
…むしろ、痛快でぞくぞくした。
宮緒の重く暗いあの町のイメージを、片岡はいとも簡単に拭い去ろうとしているかのようであった。
「…気を悪くしたか?」
片岡に見つめられながら、小さく首を振る。
深呼吸して、口を開く。
「…僕は…あの町が嫌いです…」
片岡は二十歳だった。
とても大人びて見えたから驚いた。
慶應大学の二年生だが、まもなくニューヨーク大に留学するそうだ。
…せっかく知り合えたのに、遠くに行ってしまうのかと宮緒はがっかりした。
「休みには帰ってくるさ。
しっかり勉強して優秀な大人になってくれ。
…俺は親父の家業に関わる気はないから、いずれは君が親父を支えてやってくれ」
「え?」
驚きのあまり、フォークが止まる。
「親父は今の不動産業だけで満足しているけれど、俺はリゾート産業にも進出するつもりだ。
だからアメリカ留学を決めた。
…あの小さな海の町…」
その言葉に、宮緒の睫毛が瞬いた。
「…あんな特徴のない小さな漁師町は過疎が進んで寂れる一方だ。
親父にとっては故郷だから思い入れは人一倍らしい。
リゾート化には二の足を踏んでいる。
…年寄りは感傷的すぎていけない。
だから日本中過疎村ばかりになる。
…あんな町、リゾートで生き残らずに何で生き残るって言うんだ」
あの町を冷たく切り捨てるような言葉…。
けれど、宮緒は少しも不快には思わなかった。
…むしろ、痛快でぞくぞくした。
宮緒の重く暗いあの町のイメージを、片岡はいとも簡単に拭い去ろうとしているかのようであった。
「…気を悪くしたか?」
片岡に見つめられながら、小さく首を振る。
深呼吸して、口を開く。
「…僕は…あの町が嫌いです…」