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星逢いの灯台守
第3章 空蝉のひと
竹林の先が開け、古趣に富んだ茶室が見えてきた。
数寄屋造りの茶室だ。
躙口から入ることを勧められ、中に入る。
狭い入り口を潜り抜けると、四畳ほどの茶室が現れた。
天井は意外に高い。
勧められた場所にぎこちなく座る。
「…すみません。僕は茶道は一切心得がなくて…」
最初に断ると、由貴子は優しく微笑った。
「もちろん構いません。
ただ私がお茶を差し上げたいだけですから、どうぞお楽に…」

美しい姿で、しゅんしゅんと湯が沸く釜の前に座った由貴子に興味津々で話しかける。
「お茶…て、どんなことをするのですか?」
「正式な茶事は懐石料理から始まって、席改め後にお菓子、濃茶、薄茶…と進みます。
けれどお稽古などではお菓子、濃茶、薄茶…と召し上がっていただきます。
濃茶は通常の三倍くらいの濃さの抹茶で点てますので慣れないと苦いので、お薄で差し上げますね」
茶杓で薄器から抹茶をひと匙半掬い、茶碗に入れる。
柄杓で茶碗に湯を注ぐ。
流れるような…それでいてゆったりと優雅な所作で茶筅を使い細やかに茶を点てる由貴子に、宮緒は思わず見惚れた。

「一期一会という言葉をご存知ですわね?」
「はい」
よく聞く言葉だ。
「茶の湯では同じ茶事は二度とないとされています。
例え同じお客様だとしても。
…一期一会…今、この瞬間は一度きりなのです…。
ですからこのひとときを大切にお客様をもてなすのです。
このお茶室の中では身分の高い低いはありません。
茶事においてはすべてのひとは平等にひとときを愉しむのです」
由貴子の静かな美しい声が胸に染み入る。
「…一期一会…」
「…はい…」

…しばらくは由貴子が静かに…無駄な動きなく、優美に茶筅を使う音だけが聞こえる。

「…どうぞ…」
宮緒の前に静かに茶碗が置かれた。
宮緒が途惑う前に、由貴子がさりげなく指南をしてくれる。
「…お茶碗を右手で取って左の掌の上に置いてください。
時計回りに二度ゆっくりと回していただいて、お召し上がりください」
その通りの所作を繰り返し、
「…いただきます」
薄茶を口にした。

…ふんわりときめ細やかな泡がまるでムースのように立ったお茶であった。
口にすると抹茶の苦さは全くなく、馥郁たるお茶の薫りが広がり、まろやかでほのかな甘味すら感じる豊かな味わいであった。

「…とても美味しいです」
宮緒は素直な感想を述べた。






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