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星逢いの灯台守
第3章 空蝉のひと
由貴子の長く濃い睫毛が震える。
「…やめ…て…おねが…い…」
「貴女は私が好きですか?
僕はただ貴女の無聊を慰めればそれで良かった?
誰でもよくはなかったと仰って下さいましたね。
…では、僕が好きですか?」
由貴子の白く小さな貌を両手で挟み込み、睫毛が触れ合いそうな距離で、甘く熱く囁く。
「…僕が好きでしょう?あんなに熱く応えてくださったではありませんか」
手のひらの中の由貴子の白く美しい貌が熱く火照る。
「…いや…やめ…て…」
抗う由貴子を宥めるように…切なく見つめる。
「僕は明日には上海に帰らなくてはなりません。
だからどうしても今、ご返事をいただきたいのです。
…由貴子さん…」
濡れた黒い瞳が、切なげに震える。
「…私は…貴方が…」
…その時、躙口が静かに開き、落ち着いた若い男の声が響いた。
「…おや、先客がいらしたとは知りませんでした。
僕がお約束の時間を間違えましたか」
悠然と、長躯の男が茶室に姿を現した。
由貴子が息を飲む。
「…森先生…!」
「由貴子さん、僕とのお約束を忘れてこんな美男子のお客様と談笑とは随分酷いなあ…」
朗らかに笑い声を立てながらも、その理知的な眼差しは少しも笑ってはいなかった。
「…私は森健斗と申します。
瑠璃子ちゃんの主治医で…由貴子さんのお教室の弟子です」
森と名乗る男は余裕に満ちた様子で茶室の置き花入れに眼を遣る。
「青磁の花入れに木槿ですか…。綺麗ですね。
掛け物は…五代目のお軸…。初めて拝見します。
…ああ、茶碗は黒織部ですね。
この光沢が実に素晴らしい。
この茶碗で僕も一服いただきたいですね」
男は実に物慣れた様子であった。
「…貴方は…」
牽制しようとする宮緒に、鋭い一瞥をくれる。
「弟子で恋人ですよ」
「森先生!」
男は片膝を着いて由貴子の傍に座ると、馴れ馴れしく肩を抱いた。
由貴子の形の良い頤を、医者らしい器用そうな大きな手が持ち上げる。
男の理知的な眼差しが宮緒を睨め付ける。
「僕の恋人と一夜のアバンチュールがあったらしいですが…そんなことくらいでこのひとを独占できると思わないでいただきたい。
…僕はずっと前から由貴子さんを愛しているのですから」
「…やめ…て…おねが…い…」
「貴女は私が好きですか?
僕はただ貴女の無聊を慰めればそれで良かった?
誰でもよくはなかったと仰って下さいましたね。
…では、僕が好きですか?」
由貴子の白く小さな貌を両手で挟み込み、睫毛が触れ合いそうな距離で、甘く熱く囁く。
「…僕が好きでしょう?あんなに熱く応えてくださったではありませんか」
手のひらの中の由貴子の白く美しい貌が熱く火照る。
「…いや…やめ…て…」
抗う由貴子を宥めるように…切なく見つめる。
「僕は明日には上海に帰らなくてはなりません。
だからどうしても今、ご返事をいただきたいのです。
…由貴子さん…」
濡れた黒い瞳が、切なげに震える。
「…私は…貴方が…」
…その時、躙口が静かに開き、落ち着いた若い男の声が響いた。
「…おや、先客がいらしたとは知りませんでした。
僕がお約束の時間を間違えましたか」
悠然と、長躯の男が茶室に姿を現した。
由貴子が息を飲む。
「…森先生…!」
「由貴子さん、僕とのお約束を忘れてこんな美男子のお客様と談笑とは随分酷いなあ…」
朗らかに笑い声を立てながらも、その理知的な眼差しは少しも笑ってはいなかった。
「…私は森健斗と申します。
瑠璃子ちゃんの主治医で…由貴子さんのお教室の弟子です」
森と名乗る男は余裕に満ちた様子で茶室の置き花入れに眼を遣る。
「青磁の花入れに木槿ですか…。綺麗ですね。
掛け物は…五代目のお軸…。初めて拝見します。
…ああ、茶碗は黒織部ですね。
この光沢が実に素晴らしい。
この茶碗で僕も一服いただきたいですね」
男は実に物慣れた様子であった。
「…貴方は…」
牽制しようとする宮緒に、鋭い一瞥をくれる。
「弟子で恋人ですよ」
「森先生!」
男は片膝を着いて由貴子の傍に座ると、馴れ馴れしく肩を抱いた。
由貴子の形の良い頤を、医者らしい器用そうな大きな手が持ち上げる。
男の理知的な眼差しが宮緒を睨め付ける。
「僕の恋人と一夜のアバンチュールがあったらしいですが…そんなことくらいでこのひとを独占できると思わないでいただきたい。
…僕はずっと前から由貴子さんを愛しているのですから」