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第3章 誘い

……そうだ。久しぶりに妻を誘ってみよう。

　思い付きでしたが、この勢いを嫁にぶつけることは問題ない。ダルマ顔でスタイルも崩れてしまった女ですが、唯一、私の欲をさらけ出せる相手です。一年以上合体していないので、相手も悦ぶはずです。立派に育ったメタボリックな腹で押さえつけて、突きまくってやろうと思いました。昔のままなら、アソコの締まり具合もいいはずですし。

　だけどふと、不安がよぎりました。

　……拒まれたらどうしよう。

　セックスは男女の合意があって成立するものです。何年連れ添っていようが、基本的にそこは変わらない。強引に襲って愛欲を引き出すという手もありますが、なんせ年頃の娘がいる一つ屋根の下、あまり派手な動きはとれません。
　
　万が一、中年夫婦の濡れ場を娘が目の当たりにしようものなら、下手すれば私……冗談抜きで居場所を失います。普段でさえ顔を見てくれないのに、そうなってしまったら獣扱いされることでしょう。

　思えば妻との会話もめっきり減りました。世間話すらしてくれない。

　せめて「ご苦労様」の一言があれば、この疲れ具合も多少は和らぐというものなのですがね。毎晩の飯も当然ながら作り置き。冷えた焼き魚のどこが美味いというのか……。

　今日はおそらくカレーでしょう。一人で鍋を温めて、深夜テレビを呆然と眺めながら食べる画が浮かびます。

　あっ……と気づきました。そして、ダメじゃん……と落胆しました。
　
　カレーで思い出しました。妻は今日明日と旅行に出掛けたのでした。年に一回、仲のいいおばさん連中と温泉旅行。それが今日でした。だから飯がカレーなのです。

　……ということは娘も居ない。いや家に居るのはいますが、私と二人っきりだと蛸壺に入り込んだタコの如く部屋から出てきませんのでね……。

　こうなるとオナニーになる。ネットのエロ動画をオカズにするか、レンタル屋でＤＶＤを借りて、テレビのあるリビングでシコシコすることになりますが……
正直面倒臭い。娘に感づかれないようセットして上手く抜いたとしても、その後処理を考えると、非常に面倒臭い。

　……お預けか。

　私は肘掛けに寄り掛かって、前面が禿げかけた頭を撫でました。ちょっとムシャクシャして、不手際をした部下に吐くような溜め息を吐きました。

　頭を撫でた手でそのまま頬杖をつき、目をつぶります。