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獣に還る時
第1章 獣に還る時
「お風呂は~? 入らないなら栓抜くけど」


 夕食後、洗い物をしてすぐに風呂に入った妻が戻ってきた。シャンプーと石鹸の香りを漂わせ、肩まで伸ばした髪をタオルで丁寧に拭いている。


「ああ……風呂は入るから、そのまんまでいい」


 夫はそう返事をしつつ、妻の体を軽く流すような眼差しで観察する。


 思えば彼女も歳をとった。今年で四十というのだから、考えてみれば驚きだ。りっぱな熟女の仲間入りである。共に生活していて普段は気にしなかったが、改めてみてみると、やはり妻の体型も崩れてしまっている。知り合った頃は痩身ながらも引き締まった体つきをしていたものだが、今では標準……ギリギリくびれが残っている程まで肉がついてしまった。昔のチャームポイントはその美しいボディラインだったのだが、今では少し垂れ気味の臀部。ずっと見ていると、調教師の如く叩きたくなってくるほどだ。


「ちょっと、なにジロジロみてるの?」


 妻は夫の視線に気づいて、訝しげに首を傾げた。


「なんでもない。髪を乾かすのが面倒そうだと思っただけだよ」


 夫はニヤリと笑みを浮かべて、そのまま彼女の顔を眺める。


 顔の肉はまだまだ若く見えるのでマシなほうだろう。目元がパッチリと開いていて、鼻筋も綺麗な一直線で通っている。そのぶん表情に浮き出る皺が目立ってしまうが、それもまだ見られたものだ。若干垂れた頬肉も、笑ったときに口から覗かせる真っ白な歯でカバーできる。近くで凝視しなければ、三十代半ばでも通用する顔立ちだ。


「私は寝るからお風呂の栓と、換気を忘れないでね」


「……お前も少し呑まないか?」

 
 久しぶりに夫婦で一杯と誘ったが、妻は気だるく肩を竦めた。


「今日はもう寝ないと。あなたも明日があるんですから」


 時刻は午後九時半。一般的に寝るには早い時間帯だが、この夫婦にとっては早寝が当たり前である。早寝早起きが生活のリズムを整えるとして、数年前から徐々に就寝時間が早まっていったのだ。


 夫はそれからもう一本の缶ビールを空けて、風呂に入った。


 湯船に浸かっている間、無意識に片手が陰茎を擦っていた。こんなところで自慰するわけではないが、なんとなく妻の体を思い返していると、触らずにはいられなかった。
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