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会社のドSな後輩王子に懐かれてます。
第12章 兎と蛇
蛇塚さんが絞り出すような声を上げたと同時、
パタパタと廊下を走り去る音が聞こえた。
『ちがっ……おい待てよ蛇!』
彼女を止めようとするうさの声。
しかし、廊下を走る音は止まらず、
次第に音は消えてなくなった。
────まさか。
私は部屋の襖へ足早に近づき、勢いよく開ける。
それを見て驚くうさ。
……やっぱり蛇塚さんがいない。
「……うさごめん、私のせいだ。ちょっと追いかけてくる……!」
「は?!でも、山下……っ」
うさの声を振り切って、私は廊下を走り出す。
次々に部屋を追い越し、辿り着いた先は広いロビー。
ここに来るまで走りながら辺りを見回してきたけど、
どこにも蛇塚さんの姿はなかった。
ということは。
私は宿泊客の靴が置かれている玄関に駆け寄る。
「……ない。」
私たちの靴が並べて置かれている中で、
蛇塚さんの靴だけがポッカリと無くなっている。
外に出たんだ。
私も急いで靴を履き、旅館を出る。
暗くて辺りが見え辛い。
それでもキョロキョロと彼女の姿を探すと、
浴衣を着た蛇塚さんが
向こうへ走っていく姿がわずかに見えた。
「蛇塚さん待って!」
私は必死に彼女を追いかける。
街灯だけが辺りを照らす、静かな道。
そこに私と蛇塚さんの足音だけが響き渡る。
もっといい助言の仕方があったかもしれないのに。
うさと蛇塚さんに心の中で何度も謝りながら、
私は暗い夜道を走って行った。