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堕ちる人妻
第1章 堕ちる人妻
 ……十年。夫婦としては短い時間と思いますが、女としての十年は永すぎました。早くに結婚してしまったのを後悔しているわけじゃないのです。


 私があの時、アナタに言った言葉を覚えていますか?


「アナタが傍に居てくれるなら、私の心は決まってます」


 恥ずかしながら、私は自分で言ったこのセリフを一度も忘れたことはありません。当時は若かった私達ですが、二人の心は解け合っているものと思っていました。気持ちはいつまでも不変で、永遠に寄り添っていけるものと思っていました。現に私は、彼と会うまではそうだったのですから……。


 私がいつもアナタの気を惹こうとしていたのはご存じでしょう? 愛する気持ちを表すことはもちろん、夜のお付き合いだって本気でした。夫婦だからというのではなく、純粋にアナタが欲しかったのです。子供を産んで崩れていく体形を維持したのもそのためで、アナタに女として見続けてもらいたかったから頑張ったのですよ? 


 髪の毛は長い方が好みだと言うから夏場もそのままで、パッチリとした目と小さな唇が可愛らしいというから毎日鏡を見て顔の筋肉を鍛え、いつも痛いぐらいに揉みしだいていた胸の弛みに気を使い、バックから突き上げられていたお尻が垂れ下がらないよう運動して、腰のくびれを際立たせるために体操を忘れず、身につける下着にさえアナタ好みにしていたのです。


 密かにエッチな動画を観て勉強もしました。


 どうやったら男を悦ばせられるのか、その手の本も読みました。


 昼間の明るい時間から一人ヘッドフォンをして勤しむその姿は、世間体を考えれば恥ずかしい限りです。たまに近所の奥さん方の笑い声が聞こえたときには、もう背徳感さえ感じました。


 だけどそんな中、動画の中で激しく突き合う男女を観ながら、私は熱くなった股間に指を入れるのを止めないのでした。


 そして、後に襲ってきた虚無感に泣きました。


 どうしてこんなことをしたのだろうと、快感を助長させていた愛液が酷く汚らわしいモノにしか見えません。それからというもの、一人で耽る快楽は、やればやるほど自分の心に淋しさを植え付けていくのでした。 
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