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はなむぐり
第8章 花に包まれる

むわっと包みこむ甘い薔薇の香りにはいつも戸惑う。蜜樹が愛用している薔薇のシャンプーとコンディショナー、ボディーソープは私にはどうも。蜜樹の趣向は私の生活をも変えたのだ。部屋に増えるピンク色の小物やガラスの雑貨。たまに私も花を買って帰るときもあるため、花瓶もいくつかある。遠方まで行って二人で選んだ物ばかり。
でっぷりとした腹を覆う毛を甘い香りで誤魔化し、いつもより念入りに、足の指の間もぬかりなく。痩せればいい話だが、体重は落ちても余った皮はぶよぶよしている。
終わりのない情けなさを抱えて乳白色の湯に浸かり、すぐに上がって歯を磨いた。
長年愛用しているグレーのTシャツとベージュの短パンでリビングへ行くと蜜樹の姿がなかったが、すぐに寝室のドアが開いた。顔半分だけ覗かせて、クスクス笑っている。
「おじさんが大好きな格好だよ。見たい?」
蜜樹は棒立ちの私に手招きし、早くしてと言わんばかりに頰を膨らませる。
「見たいよ。見せてください。お願いします」
背筋を伸ばして頭を下げるとドアが開き、顔を上げると高校生のときの制服を着た蜜樹が立っていた。
「少しきついけど、まだ大丈夫。どうかな」
くるりと回ってスカートをなびかせ、あの頃より豊満に成熟した身体に制服がぴったりと張り付いていて、すらりと伸びた手足は美しく、成長していても大人になっても、この姿は蜜樹が勇気を出して私に自分の思いをぶつけた夜を思い出す。
「綺麗だよ。すごく綺麗だ」
「やったぁ。嬉しいっ…」
色っぽく俯く蜜樹はあの頃のままだ。胸がいっぱいだ。
蜜樹の肩を掴み、顔を近づけた。こくりと小さな喉が鳴り、『キスして』と。その真っ赤な唇を奪い、きつく抱きしめた。

