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もしも勇者がラスボスと子作りをしてしまったら。
第1章 いきなりラストシーンです。
私の言葉に足を止めた勇者は、何か考え事をしているのか、背を向けたままじっとしている。

その広い肩が、ため息をつくように大きく上下したかと思うと、再び奴の声が耳に届いた。

「君には……生きていてほしい」

「……」

その言葉を聞いた瞬間、ジリッと私は力強く拳を握った。

力を込め過ぎてしまい、指先の間から赤い体液が滲み出る。

私に情けをかけるだと?

私に生きてほしいだと?

命拾いして残った僅かなプライドが、ふつふつと怒りの感情を巻き起こさせる。が、同時に胸の奥では、勇者が掛けてくれた言葉にじんわりと温かい何かが広がっていく。

それを認めないようにするがごとく、私は残った力で背中の羽に力を入れると両足で地面を蹴って、一瞬で勇者の目の前に降り立つ。

そして、その行き道を遮るように、大きく両腕を広げた。

「ふ、ふざけるな! 同情などいらん! 早く……早くその剣で私を殺せ!」

動揺している私は、勇者が丸腰なのも忘れて思わずそんな言葉を大声で叫ぶ。

が、どれだけ怒りの感情を剥き出しにして睨もうと、相手の目には一滴の敵意も濁ることもなく、瞳は柔らかく細められたまま。

慣れないそんな目つきと、何故か勇者の顔を見るとドクンと跳ねてしまう心臓を誤魔化すように、私はますます目を細めた。

「それは……できない」

勇者がまたぽつりと言葉を漏らす。

「どうしても……君には生きてほしんだ」

「くっ」

またも不意を突かれて、思わず声が漏れる。

どうしてこいつはこんなにも、と理解できない疑問に苦しみながら、心の奥底では勇者の言葉に喜んでいる自分がいる。

こんな時でありながら、その喜びを感じる度に、勇者に抱かれた温もりとあの行為が頭の中に反射的に浮かんでしまう。

「だったら……」

かつてない岐路に立たされた私は、渦巻く感情を整理する前に咄嗟に唇を動かしてしまった。

何か声を発しないと、この妙な沈黙には耐えられなかったからだ。

次にする言葉を考える間もなく、こうなればヤケクソだ、と言わんばかりに、私は衝動のまま口を開いた。

「だったら、私の……私の、夫になれ!」
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